第10回『このミス』大賞 1次通過作品
雪に閉ざされた縁切り寺で連続する怪事件には、
主人公がかつて暮らした集落での、ある過去が関係していた――。
個性的な探偵トリオもどきが衝突し合いながら、ある真実に辿りつく。
『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと』 矢樹純
ちょっと――あるいはだいぶいびつな作品である。一応のところ“器の形”はミステリであり、“素材”もミステリなのだが、どこかしらいびつなのだ。盛りつけ方に非ミステリ的な個性があるのか、あるいは、その器が置かれたテーブルや部屋、もしくは店といった外部に非ミステリ性が宿っているのか。
とはいえ、ひとことで要約するならば、この一皿は美味だった。
まず、キャラクターがいい。それぞれに事情を抱えた中心人物たちの個性がきっちりと描かれている。それに加えて、その連中がいささか我が儘なのもよい。我が儘であるが故に展開が読めないし、しかもその我が儘に読者が「仕方ない奴だなあ」と親しみを覚えてしまうような計算と演出が備わっている。たとえば、人の話を聴いていて勝手に割り込んでくる自称心理カウンセラーの造形とか。
舞台は青森県のP集落。そこにある篭山寺は、縁切り寺として知る人ぞ知る存在であった。そこに集まった人々のなかで事件が連続する。外界とは雪のせいで遮断されてしまった状況で、死者も出た。そして、その事件は、私がかつてP集落に置き去りにしてきた“過去”と深く関わっているようなのだ……。
集落を機能させるためのルール――そのなかには集落公認のいじめも含まれる――の不気味さがまず印象に残る。単なる辺境の集落というだけではなく、こうしたその土地の社会までもがきっちりと作り込まれてあると、その土地柄に起因して発生する出来事や人々の心の動きに説得力が増す。そして、そうやってP集落がきちんと作り込んであるからこそ、集落外での長い生活の後に再びその地に戻った“私”が様々な発見をしていく(それは自分の内面での発見をも含む)様子に迫力が増すのだ。こうした過去との対決/対面の場面が、この作品では特にいい。
物語は、便宜的に探偵トリオとでも呼ぶしかなさそうな面々の個性や思惑のぶつかり合いのなかで、ある真実へと辿り着く。その真実そのものは、過去に例のある枠組みを用いているが、後味のよい使い方をしている点に好感が持てた。
(村上貴史)















