第17回『このミス』大賞 2次選考選評 大森望

勝負を分けたのは一言で説明できる〝取り柄〟の有無

 今年の二次選考会(最終候補決定会議)は、昨年に続いて台風が直撃。これは順延のお知らせメールが来るかも……と思っていたら、さいわい台風の進行が遅く、予定どおり決行。打ち上げが流れただけで、選考会自体はつつがなく、なごやかに開催された。
 もっとも、編集部のメンバーは、自分の推し(ている作品)が候補に残るかどうかの瀬戸際ということで、よくわからない緊張感を孕むピリピリした雰囲気。結果は悲喜こもごもだったようですが、ともあれ、ごらんのようにバラエティ豊かな最終候補作7作が決定した。
 希少動物ネタあれば将棋ネタあり、キラキラネームネタの学園ものがあればISがらみの国際冒険小説あり、宇宙空間での密室殺人あり、「走れメロス」ネタの歴史本格ミステリあり、シリアルキラーもののサイコサスペンスあり――と、それぞれに個性的。昨年の『十三髑髏』(『オーパーツ 死を招く至宝』)枠というか、誰もAをつけていなかったのに最後の投票でいきなり最終候補に滑り込んだ作品もあって、昨年に続いてこれが大賞を射止めるかどうかに、ひそかに注目したい(どれが問題の作品なのかは書かないので推理してください)。

 今回は一次通過作が24作もあったため、最終候補作7作については最終選考の選評でくわしく言及することにして、ここでは、惜しくも二次選考で敗退した17作品について簡単に。
 大森がAをつけたのに早々と脱落したのは、谷中を主舞台にした破天荒なリーガル・サスペンス、山梨かおる『弁護士は元アイドル』。文章は粗いし設定にもムリが目立ち、そのわりに展開はパターンどおりだが、キャラクターの魅力でぐいぐい読ませる。元アイドルものだから推したわけではなく(というかアイドル関連のディテールは昭和っぽくて全然ダメ)、ヘタウマっぽい作風に好感を持ったわけですが、減点法で評価されると、残らないのも無理はない。個人的には、いつの日か隠し玉で救済されることを祈りたい。
 滝沢一哉『天使の鎖』は、伊坂幸太郎《死神》シリーズと石田スイの漫画『東京喰種トーキョーグール』を混ぜたようなダークファンタジー系のホラーサスペンス。吸血鬼的な存在の特殊設定がいろいろユニークで、いま風の新しさを感じさせる。もっとキャラを立てればさらに可能性が開けるかもしれない。
 小林正和『青色の記憶』は、過去にさんざん書かれてきたフェルメールの贋作ネタに挑む美術ミステリ。ただし、この小説の場合、高校生が主役になるのがポイント。虚実皮膜の描きっぷりも板についている。ただし、インパクトという意味でやや物足りなかったかも。
 斉木円『ア・ドール』は、逮捕された息子を救うためにがんばる父親の話。定型ながら、サスペンスとしてはわりとよく書けているが、後半が盛り上がらない。
 猫森恋『思い出質量パーセント濃度』は、小・中・高時代に起きた事件の謎を解く学園ものの本格ミステリ。トリックは悪くないが、この種のミステリにしてはキャラクターの魅力がもうひとつ足りない。
 木幡泰昇『グレートクリムゾン』は、導入部を含む現代パート(地元紙記者が取材を進めていく部分)がすばらしい。その反面、沖縄返還がらみの冒険小説パート(1969年の話)に入ると、とたんに精彩を欠く印象が否めない。
 山河珊瑚『ベラドンナの神託』は、予言の成就と旧家の争いをめぐる、わりあい古典的な本格ミステリ。ドラマ「TRICK」の特番っぽいというか、いまどきの長編ミステリとしてはちょっと古臭く見える。
 浪華壱『その男、女衒』は、偽装結婚の仲介とか歌舞伎町の中国人ヘルス嬢とかを扱ったサスペンスで、やはりひと昔前のノワールっぽく見えてしまう。
 松山愛流『君の触れざる手は裏切らない』は手フェチという特殊分野に踏み込んだ恋愛サスペンス。題材は面白いが、うまく扱いきれていない。

 ……と、ここまでがB以上の作品。あまり高い点をつけられなかった残り8作については、まとめてコメントする。
 日部星花『新たなる罪のプロローグ』は、全体にリアリティが希薄でぼんやりしている印象。うまく焦点が合えば面白くなるかも。伊達慧『Cide Story』は、アンドロイドの反乱もの。ネット監視官の設定と前半の展開はよかったのに、後半が紋切り型に堕してしまう。いまこのテーマで書くなら、もう一歩先に踏み出してほしい。水木玖宣『鴉の眼』は、監視システムもののサイバーサスペンスなのに同時代感やリアリティに乏しく、新味が感じられなかった。吉良惟新『シェイクスピアの子』は、予知夢と連続殺人をめぐるサスペンスで、これまた新鮮味に乏しい。光井洋『殺欲』は、ジュリスターシステムの設定が謎すぎて、話に説得力がない。文章にも、もう少し気を遣ってほしい。澤江晋平『コールド・ソイル』は、臓器売買とロシアマフィアをめぐるサスペンス。まとまっているが、設定やストーリーに既視感がありすぎた。浅葱惷『クロユリの花』は私立高校を舞台にした学園ミステリ。自主映画とシナリオというモチーフをもっとうまく生かせれば面白くなりそう。五十嵐憂季『不可逆チルドレン』は、脳機能の障害と犯罪の結びつきをテーマにしたサイコサスペンス。13歳の少女が3人を殺害する導入は目を引くが、不可逆少年少女を収容して研究する施設に無理がありすぎる。
 というわけで、最終選考に進んだ7編と、それ以外の17編の差は小さいようで大きい。やはり、一言で説明できる〝取り柄〟があるかないかが勝負を分けたようだ。一次通過作はどれも、〝最後まで読ませる〟というレベルでの水準はクリアしているので、あとはセールスポイントを磨いてほしい。

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