第17回『このミス』大賞 2次選考選評 村上貴史

大混戦を勝ち抜いた七作品

 最後は票が割れて、三人の二次選考担当がそれぞれが推す作品を泣く泣く(少なくとも私は泣く泣く)引っ込めざるを得なかった選考会だが、それでも七作もの最終候補に上げるという結果になった。水準以上の作品の数が多かったためである。
 まずは、最終候補に遺した作品から。
 朝倉雪人『ライク・ライカ』は、宇宙空間での怪死事件というミステリとして強烈にインパクトがある要素と、動物医療への問題意識(日本社会への問題意識でもある)が両立していて好ましい。そこに加えられた青春小説要素も、賛否両論あろうが、個人的には登場人物像の確立に寄与しており有益と判断した。越尾圭『ターミナル・ポイント』は、ワシントン条約で取引が規制された動物という題材の興味だけでなく、テンポよく結末まで読ませる書きっぷり(文章と構成と)も魅力。真相そのものは満点とはいえないが、エンターテインメントとしてトータルで充実していた。澤隆実『砂塵のサアル 血の復讐』は戦場冒険小説として安心して読み進められた。ピンチを乗り切るアイディアもバリエーションに富んでいてよい。小塚原旬『セリヌンティウス殺人事件』は、メロスとセリヌンティウスが絡む殺人事件でプラトンが探偵役を務めるという概略からは想像できないほど読みやすい。ここまでリーダビリティがあると、設定が実にキャッチーなものとして活きてくる。倉井眉介『怪物の木こり』は、サイコパスのシリアルキラーが探偵役として活躍していた点を評価したい。脳チップというガジェットは、さらに活かしようがあったのではないかという残念さはある。黒川慈雨『ギフト』と猫吉『殺戮図式』は一次で推した作品。それぞれの魅力が二次でも支持されて嬉しい。やはり一言で明確に語れる魅力を備えた作品は強い。
 続いて最終に残せなかった作品を。
 日部星花『新たなる罪のプロローグ』もまた、一次選考の段階で強く支持していた作品。しかしながら、二次選考会では、他のお二方がそれぞれに別の作品を支持し、結果として冒頭に記したかたちとなってしまった。残念な結果ではあるが、引き続き小説を書き続けて戴ければ嬉しい。他の選考委員の選評(おそらく彼等から見た欠点が記されていると思う)や、一次選考の選評で私が記した“難点”を冷静に頭で分析し、一方で少なくとも一人の読み手を夢中にさせた自信を胸に抱いて、次回作に挑んで戴きたい。浅葱惷『クロユリの花』の筆力と構成力も光っていた。結末で明かされる設定は意外だったが、意外すぎて他の選考委員には気に入られなかった。個人的には、あの真相は許容範囲なのだが、万人に納得させるための丁寧な伏線が欠けていたのも事実。惜しい。猫森恋『思い出質量パーセント濃度』は、日常の謎タイプの事件を複数組み合わせて愉しませてくれた。そこにファンタジーの枠が設定されているのだが、これを加える必然性がもう一つ納得できなかったのがマイナスポイント。伊達慧『Cide Story』は、ソフトウェアというコンピューター内部の世界を視覚化し、それを文章で表現するというなかなかの苦行に取り組み、それなりに魅力的に仕上げた点を、まず評価したい。その視覚化したことで説得力が増した鍵のトリックも愉しめた。しかしながら、そうした表現が面白い一方で、物語そのものはアンドロイドの反乱という手垢のついたテーマに依存していた点が敗因となり最終選考に進めなかった。山梨かおる『弁護士は元アイドル』は、何人もの人物が濃淡なく登場する序盤で頭を抱えかけたが、しばらくして中心人物が明確になってからは、法廷での駆け引きの興味もあって作品に引き込まれていった。終盤のどんでん返しは、意外性のための意外性という強引さを感じさせてしまい勿体ない。ページをめくらせるパワーという魅力が共通していたのは、澤江晋平『コールド・ソイル』と五十嵐憂季『不可逆チルドレン』。前者は人物設定に「実は○○だった」が多かった点が残念だが、国際的な人身売買という題材をスムーズに読ませてくれた。後者は、犯罪小説/本格ミステリ/サスペンスなどのあいだをフラフラしていて落ち着きがないが、各シーンの描写には迫力があり、欠点を力ずくでカバーしていた。木幡泰昇『グレートクリムゾン』は一次で推した作品だが、その際の作品講評にも記した“古さ”が足を引っ張った。斉木円『ア・ドール』の堅実な造りは評価したいが、こうした競争の場においては、それだけでは勝ち残れない。滝沢一哉『天使の鎖』は、ちょっと変わった生命体が心というものに目覚めていく展開は悪くはないものの、そうした非現実の設定を“判るでしょ”と説明なしに読み手に渡されても戸惑ってしまう。
 以降は、最終候補となるにはもう少し距離のあった作品である。
 松山愛流『君の触れざる手は裏切らない』は、手フェチの物語だが、その心理に説得力がないままにフェチの描写が続く。最後にミステリになるという構図は否定しないが、そこまで維持する牽引力に欠けた。浪華壱『その男、女衒』は、けっこう読ませるメロドラマだが、主役を複数に人物に分けた結果、それぞれの山が低いまま終わってしまった。水木玖宣『鴉の眼』は、国家レベルの大きな話を描いているが、それを支える個々の要素の強靱さにバラツキがあり、全体を支え切れていない。小林正和『青色の記憶』は、フェルメールの話だけでもおなかいっぱいになるところに、高校の物語も押し込み、しかもそこに人物誤認トリックのような仕掛けも盛り込んだりして、結果としてフォーカスのぼやけた作品に仕上がってしまった。山河珊瑚『ベラドンナの神託』は、著者の表現(作中人物の行動や反応)と読者の温度差が著しく、また、語り口も大仰だったり説明過多だったりで、物語に入り込めなかった。吉良惟新『シェイクスピアの子』は、中心人物の行動が不自然で、冒頭から疑問符がついてしまう。光井洋『殺欲』は2027年を舞台にしつつも、その時代の構築が不十分。故に、その舞台で展開される物語も説得力を失う。
 さて、昨年に続いて満票を獲得した作品がなく、また、三人の二次選考委員がそれぞれお気に入りの一作を残せないという混戦を勝ち抜いて最終選考に進んだ七作品。どんな結果になるのか、正直なところまるで予想がつかない。最終選考の結果を知り、選評を読める日が来るのを愉しみに待ちたい。

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