第17回『このミス』大賞 2次選考選評 千街晶之

最多本数の作品が上がってきたが……

 この賞の一次選考通過作品は、第8回あたりから20作を超えるのが当たり前のようになっているが、今回は24本という、第13回と並ぶ最多本数の作品が二次選考に上がってきた。しかし、正直なところあまり豊作とは感じられず、水準の高低差がかなり激しいという印象を受けた。
 二次選考通過作品では、『ライク・ライカ』『怪物の木こり』の2作に特に高い点をつけた。前者は大気圏外の殺人という奇想に釣り合うハウダニットの興味と、特殊能力を持つ探偵役をいかにして万能になりすぎないよう話に絡めるかという工夫が高い評価に値するし、後者はサイコパスの主人公が人間味を帯びてゆく過程の面白さに加え、クライマックスの構成にもひねりがあって良い。
 迫力のある国際冒険小説『砂塵のサアル 血の復讐』、若竹七海の某作品のようなテーマを一ひねりしたサスペンス小説『ターミナル・ポイント』、初期の柳広司作品めいた印象の歴史本格ミステリ『セリヌンティウス殺人事件』はいずれも欠点の少ない仕上がりで、減点法なら有利だろう。逆に減点法なら不利だが突き抜けた美点もあるのが残りの2作で、たとえ受賞できなくても選考委員のあいだで語り草として残るタイプだ。『殺戮図式』は稚拙な部分もあるが、ミッシングリンクのユニークさで一点突破を図った印象。『ギフト』は最初、「これは駄目だろう」と早々に落選候補に入れかけた作品。ところが、最後まで読むと序盤のマイナス要素がすべてプラスに裏返ったので驚かされた。とにかく、前例のない試みなのは確かである。
 最終選考に残すか否か、最後まで意見が割れたのが『新たなる罪のプロローグ』『思い出質量パーセント濃度』だ。前者は複雑な構成のわりに読ませる工夫が足りないなどの弱点が目立って私は推せなかったが、10代という作者の年齢を考えれば、この先まだまだ可能性はあるだろう。後者は逆に私しか強く推さなかった作品で、終盤の展開で評価が割れたけれども、最初の謎の解決がなかなかユニークだった点については一致した。手直しすれば「隠し玉」くらいにはなるのではないか。
 奇しくも似た構成の『コールド・ソイル』『グレートクリムゾン』では私は前者を推したが、ともに最終に残るレヴェルの決め手を欠いた。特に後者は風呂敷を広げすぎた感がある。ちょっと採点に悩んだ『不可逆チルドレン』はオチは見え見えとはいえ、そこに至る過程は工夫が凝らされていて面白かった。更生施設に鏡張りの部屋があるといったトリック優先の無茶な設定も、読む人によっては批判の対象となるだろうが個人的には嫌いになれない。『Cide Story』は近未来ディストピアの設定が興味深かった。ミステリー面でもっと突き抜けたところがあったら最終に推せたのだけれど。
 ここまでが「惜しい」と感じた作品で、ここから後の作品には不満が大きい。『鴉の眼』はもっと活躍しそうな人物の出番が案外少ないなど、構成のバランスの悪さが気になった。『天使の鎖』は悪くない小説だが、今回の候補作の中ではミステリー度が低かった。『ア・ドール』『殺欲』はありがちな話という印象で、飛び抜けた独自性が感じられない。『青色の記憶』は、以前に二次まで残った作品の大幅改稿という点では岩木一麻の第15回大賞受賞作『がん消滅の罠 完全寛解の謎』と同じながら、「問題のある作品が傑作に化けた」岩木作品に対し、こちらは「問題のある作品がましになった」というレヴェルなので、努力は認めるがこれでは最終には残せない。思い切ってこのアイディアを捨てて完全新作に挑んだほうがいいのではないか。『その男、女衒』はミステリーの賞を狙うなら、幸造のパートを多少削って女衒の復讐劇に焦点を絞ったほうが良かったかも。『ベラドンナの神託』は登場人物の心理に不自然な点が目立つし、展開ももう少し整理できた筈だ。
『君の触れざる手は裏切らない』は終盤の狙いはわかるが、筆力に乏しいため、そこに至るまでが読んでいて厳しい。『シェイクスピアの子』は無意味に気取った文章と無駄に多い官能描写ばかりが印象に残り、ミステリとしての骨格が完全に霞んでいる。『クロユリの花』のメイントリックはどう考えてもバレるに決まっている。何故バレずに済んだのかにもっと筆を費やすべきだった。『弁護士は元アイドル』は真っ先に落ちる作品だと思っていたので、他の選考委員の高い点数に驚いた。被害者が1人で特に手口が残虐というほどでもない殺人事件で、検察がいきなり死刑を求刑することなどまずない筈なのに、弁護士の口から「七十パーセントの確率で死刑になる」という台詞が飛び出し、被告人も死刑を覚悟している様子なのには唖然とした(殺人罪の厳罰化が進んだ時代が舞台であるなら、その前提は早い段階で書いておくべきだ)。ラストの大ネタも幾つかの前例が思いつく。過去や近年の名作を読んで、法廷ミステリーを学び直していただきたい。

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