第16回『このミス』大賞 2次選考結果 大森望

色取り取りの少数精鋭 最終選考へ期待が止まない

 この選評でははじめまして、今回から二次選考を担当させていただく大森です。
 大森はもともと最終選考の担当なんですが、『このミステリーがすごい!』大賞のそもそもの発案者であり、この賞をずっと裏から支えてきた茶木則雄氏が昨年をもって勇退。あとはよろしくと後事を託されたので、最終選考兼任枠の後任として、今回から大森が二次選考にも加わることに。新人のわりにフレッシュ感がなくてすみませんが、よろしくお願いします。
 というわけで一次選考通過作20作を読破し、初めて臨んだ二次選考会(最終候補決定会議)の日は、迷走台風の影響で土砂降りの大雨。宝島社にたどりついたときはずぶ濡れで、選考会にも何やら暗雲が立ちこめる。「二次はさあ、とにかくぜんぜん意見が合わないんだよ」という、茶木さんからさんざん聞かされていたぼやきが頭をよぎったことは言うまでもない。
 実際、選考会が始まってみると、第1回の投票で二次選考委員3人が揃ってAをつけた作品はゼロ。Aが2個ついたのも3作しかなく、いかにも荒れそうな気配。しかし、2時間かけて全作品についてじっくり討議したのち、再度投票してみると、2人以上がマルをつけた作品はちょうど5本。じゃあもうこの5本で決めようということになり、意外とすんなり話がまとまりました。例年より本数が少ないのは、レベルが低かったからではなく、賞を獲れそうもないものをはずして少数精鋭のラインナップを組んだためなので誤解しないください。
 最大のサプライズは、当初だれもAをつけていなかった(3人ともB+評価だった)『十三髑髏』が最終候補に滑り込んだことですが(詳細は後述)、大森がAをつけて臨んだ5本のうち4本までが残ったので結果オーライ。天気とは裏腹に、晴れ晴れした気分で選考会を終えることができた。案ずるより産むが易しとはこのことか。
 最終候補5作のうち、最初に決まったのは、警察小説として非常に完成度の高い田村和大『自白採取』。ヘタをすると話を台なしにしてしまうようなたいへん危険なネタを扱っているが、タイトロープを鮮やかに渡りきり、ギリギリ納得できるオチにたどりついた。
 くろきとすがや『カグラ』は、藤井太洋のデビュー作『GENE MAPPER』を彷彿とさせるよくできたバイオサスペンス。トマトのウイルス病から出発してだんだん話を大きくしていくあたりがうまい。量子コンピュータの扱いとか、いくつか疑問点もあるが、そのへんは簡単に修正できるでしょう。
 編集部4人が(あくまで参考意見として)そろってAをつけたのが等々力亮『生態系Gメン』。題材が抜群におもしろく、生物多様性や特定外来生物などキャッチーなネタをうまく使って、一気に読ませるストーリーを組み立てている。
 AACと評価が割れた薗田幸朗『千億の夢、百億の幻』はAIもの。Cをつける理由はものすごくよくわかるというか、SFオタク的には大森もC評価だが(こんなに優秀なAIがこんなに簡単にできたら苦労しないし、殺人なんかよりそっちのほうがよっぽど大ニュースだと思う)、大多数の読者は気にしないだろうし、エンタメとしてはよくできているので、リアリティより面白さを買って最終候補入り。
 水無原崇也『十三髑髏』は、オーパーツ鑑定士を自称する素っ頓狂な男と、彼と瓜二つの男のコンビが探偵役をつとめる全4話の本格ミステリ連作(メフィスト賞系)。1話目と3話目の物理トリックがバカバカしくもすばらしい。しかし4話目がどうしようもなくダメで一気に印象を悪くした。これさえなければ……という話で二次選考会が異常に盛り上がった結果、万一これが受賞したら、4話目はまるごと差し替えもしくはカットという条件で残すことに。
 と、以上の5編が合格ライン。大森がAをつけた中で唯一最終に進出できなかったのが、連戦連敗の競走馬が誘拐される矢吹哲也『生放送60時間――キボウノヒカリ誘拐事件』。テレビ業界ものをうまくからめてリーダビリティの高い作品に仕上がっていると思ったが、岡嶋二人などの先行作にくらべて、後半の弱さは否めない。残念でした。
 編集部票4票を集めた宮本豊司『青空作戦』は、題材が非常に面白いのに対して料理の仕方がダメすぎる。とくに、やたら感嘆符の多い会話に辟易した。もっとメリハリをつけて、抑えるべきところは抑えて書いてほしい。
 くわがきあゆ『俺が泣かせた女』は、自分を殺そうとしたかもしれない候補者の女性4人のもとをまわってDNAを集め、容疑者を絞り込んでいく異色のピカレスク。設定はすごく興味を引くが、話が話なので、こんなふうにシリアスに寄せるのではなく、コミカルな要素を入れたほうがよかったのでは。
 貴志祐方『愛の記録』は、設定が大時代すぎて、スマホが存在する現代の話とは思えない。時代と場所を移して書くか、そうでなければ、なんらかのかたちで2010年代らしさを出してほしい。
 井塚智宏『ダージリンには早すぎる』は保険会社の調査員が探偵役をつとめる全4話の連作ミステリ。一応、かたちにはなっているが、一作一作の詰めが甘すぎて、文章にもトリックにも粗が目立つ。全面的なブラッシュアップが必要。
 同じく本格ミステリ系の短編連作で惜しかったのは、細霧伝『学術情報部の悩み相談テーブル』。大学のサーバー管理者が主役の“日常の謎”もので、よくできているがさすがに地味すぎた。水島さんネタ(IPアドレスを書き換えて監視カメラを接続する話)が面白かったので、キャラクター小説で押す手もあったかもしれない。
 渋川宙『HICARU』はAIネタの日常の謎ミステリ。いまの時代のリアル系ロボットSFとしてはけっこう面白いところを攻めている、『このミス』的(エンタメ的)にはぱっとしない。
 特殊業界ものの2作(サッカーと将棋)は、業界の裏事情をけっこうリアルに描いているのに最初に広げた大風呂敷を畳みきれないという問題点が共通する。高栖匡躬『悪魔の笛』はJリーグの試合結果が事前に事細かく予想されていた通りになったという謎。倉橋省吾『完全予測棋譜』は、名人戦の前に届けられた棋譜が2日後の対局結果と完璧に一致していたという謎。ともに、どう考えてもありえない謎が核になるが、(前回の大賞を受賞した岩木一麻『がん消滅の罠』と違って)それがエレガントに解かれているとは言いがたい。どちらも、業界ものとしてじゅうぶんおもしろく書く筆力があるので、はったりはやめて、もう少し小さな謎から出発したほうがよかったかもしれない。
 黒川慈雨『星になる』は、なかなか達者な文章で書かれたイヤミス。一種の「狂った動機」ものだが、このパターンはあちこちで使われすぎているため、オチに持ってきてもあまりインパクトがない。
 KAnon『密告裁判』は『王様ゲーム』をもうちょっとリアルにした感じ。とはいえ、こんなことが起きたらメディアがもっと騒ぐはずで、3人目あたりからワイドショーで連日報道、警察や教育委員会も動くのでは。全体にタッチが古臭いのもマイナス点。
 渋川紀秀『プシュケーの剃刀』は、宝島社編集部女性陣の評価が高かったが、残念ながら、リアル系の警察捜査小説としては『自白採取』に及ばず、後半の展開が乱暴すぎることもあって、最終には進めなかった。
 宮ヶ瀬水『伊藤杏寿、顛末』は、幽霊が実在する世界という前提のもと、“生まれ変わり”の少女が名探偵役をつとめる。導入はすばらしいが、事件に華がない。ただし、謎解きというか、提示される真相はたいへんエレガントで、ロジックもちゃんとしている。これでキャラが立っていれば……。惜しい。
 川路謨『化生人形』はリーダビリティの高い時代ミステリ。事件の真相もそれなりによくできているが、あまり面白くない。犯人の一人称(我)パートはダメすぎる。
 七條幸『カーリーマー』は、いじめ+ファム・ファタールもの。えぐい描写には迫力があるが、心を壊して自殺させるプロセスはさすがに説得力がもうひとつ。
 以上、20作。一次選考を通過しただけあってどれも楽しく読めたが、受賞可能性を考えて絞ったのがそれぞれ個性的な前記5作。最終選考会でどんな議論になるか楽しみです。

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