第16回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之

不景気にも負けず粒ぞろい

 今年は大賞が出なかった新人賞が多く、ミステリー界を少々景気の悪い空気が覆っているけれども、『このミス』大賞はどうか。例年より一次通過作が少なめということもあり、やや不安な気分で読みはじめたのだが、少なくとも不作でないのは確かだ。興味を引く奇抜な謎と、独創的で意外な解決を兼ね備えたタイプのミステリーが多く、個人的には読んでいて楽しかった。
 まず最終選考への通過作から触れると、今回、私が最高点をつけ、選考委員全員の合計点もトップだったのが『自白採取』だ。警察組織の描写の手堅さと、突拍子もない謎が不思議なバランスを保っており、トリックも「よくこんなことを思いついたなあ」と感嘆させられた。五本の通過作のうち、一番少ない手直しで書籍化可能な作品ではないだろうか。
『千億の夢、百億の幻』は賛否が割れるだろうと予想していたがその通りになった。AIに関する描写の非現実性、蘊蓄の冗長さなど、かなり大きな問題点が複数あるのだが、ラストで明らかになる狙いを高く評価した。最終選考でどう評価されるかが最も気になる作品だ。『生態系Gメン』は、今まであまりミステリーで描かれなかったタイプの主人公の職業設定が斬新。一見地味な話のようでいてラストに盛り上がる点も評価したい。連作形式の『十三髑髏』は最終話が弱いという問題はあるものの、一話と二話のユニークなトリックだけでも世に出す値打ちはあると思う。トリックメーカーとしては即戦力なので、あとはプロットの練り込みが課題と言える。『カグラ』は残念ながら、私には面白さがよくわからない小説だった。キャラクター造型があまりに類型的なのが鼻についたのだが、この作品に最高点をつけた選考委員もいたので、最終選考での判断に委ねることにした。
 次に、個人的に惜しいと思った作品に触れる。『悪魔の笛』は不可解な謎と意表を衝く解決を兼備したミステリーらしいミステリーであり、最終選考に残るのは確実と思っていただけに、他の選考委員の消極的評価が意外だった。ここまで大がかりな犯罪計画にする必然性はないと言われてしまえばその通りなのだが、ミステリーとしての華は充分あったと思う。『化生人形』は非常にまとまりが良く、リーダビリティが高い時代小説。他にそれらしい人物がいないので犯人が見え見えなのが難点だが、犯人の生い立ちの描写は説得力があった。『伊藤杏寿、顛末』は幽霊+転生の組み合わせに工夫がある特殊設定本格ミステリーで、謎解きはよく考えられているだけに他に何か推せるポイントがあればと思う。『プシュケーの剃刀』は犯人の心理や犯行計画にちょっと納得し難い部分があった(全く無関係な人間の巻き添えを気にしていないのは流石に問題では)。とはいえ、この作品単独での評価は決して低くはないのだが、同じ警察小説である『自白採取』と比較するとその域に及んでいなかった。『俺が泣かせた女』は、最初はまともに見えた主人公の異常性が次第に見えてくる過程が大変上手いが、ミステリーとしての決着に唐突さが感じられた。『ダージリンには早すぎる』は一話の着想が秀逸だったので個人的には推したかったけれども、最終話が弱いという指摘には反論できなかった。『学術情報部の悩み相談テーブル』はミステリーとしてはまずまずの出来だが、キャラクターには魅力が感じられた。『愛の記録』は、ドラマティックな見せ場を作るために、登場人物に明らかに説得力のない行動をとらせてしまっている部分があった。登場人物はストーリーに奉仕する駒であって差し支えないけれども、その駒の動きが不自然さを感じさせては台無しである。
 他の作品は更に一段落ちる印象だった。『青空作戦』は今回珍しい冒険小説だったが、二部構成にしたせいで前篇も後篇もやや慌ただしい展開だ。『星になる』は視点人物が替わる構成が秀逸で、特に前半はどうなるかとわくわくしたが、ある秘密が明かされたあとは失速気味。最後に語られる動機も取ってつけたような印象だ。『完全予測棋譜』は冒頭で提示される謎の面白さと解決の平凡さがアンバランスだし、どう考えてもこんなに人が死ぬほどの事件ではない。『密告裁判』は、これだけの出来事ならばマスコミや警察がもっと介入して大騒ぎになる筈なのにそうはならないのが不自然極まりない。『カーリーマー』は展開や結末に意外性が乏しく、ミステリーを読んだ気がしなかった。『生放送60時間――キボウノヒカリ誘拐事件』は、登場人物ほぼ全員の倫理観が狂っていて、読んでいてとにかく不快だったし、結末も「それだけ大勢が共犯なら何でもできるだろう」としか思わなかった。『HICARU』はあまりに文章が稚拙で、漢字変換のミスが多い点を見ても、ろくに推敲もしていないと思われる。貴方の人生がかかっている原稿なのだから、もっと真剣に書いていただきたい。

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