第16回『このミス』大賞 最終選考選評

大森望

ダークホースの大金星! 改稿の行方はいかに!?

 まさか、『十三髑髏』が来るとは。
『このミス』大賞創設の立役者だった我らがチャッキーこと茶木則雄氏が勇退して初めての選考会は、『このミス』大賞史上最大のサプライズに見舞われた。二次選考委員も最終選考委員も宝島社編集部も、だれひとり予想していなかった意外すぎる結末。
 なにしろこれ、自称・オーパーツ鑑定士とそのそっくりさん(ともに大学生)のコンビが主役を張る、物理トリックばりばりのぶっ飛び系本格ミステリ連作(全4話)ですからね。ほとんど色物枠というか、まさに飛び道具という感じで、最終選考の5枠にいちばん最後にギリギリで滑り込んだ作品。
 M-1グランプリで言えば、敗者復活から勝ち上がったそのままの勢いで本選の優勝をさらった第11回のトレンディエンジェルみたいな感じでしょうか。考えてみれば、二次選考委員がいちばん熱く語ったのは『十三髑髏』だったし(その熱気を評価して、大森は二次でB+だった評価を最終ではA-に上方修正、これが受賞の伏線になった)、最終選考でも『十三髑髏』の話がいちばん盛り上がった。とりわけ第1話と第2話のバカバカしいまでに単純かつ美しい(しかも本格愛にあふれた)物理トリックがすばらしい。そのネタを“オーパーツ鑑定もの”という枠組みの中で処理する蛮勇と周到な計算。
 にもかかわらずすんなり受賞が決まらなかったのは、グリム童話見立て殺人を扱った、いちばん長くていちばんシリアスな最終話が激しく滑っているから。4段目で豪快に階段を踏み外して転落したというか、ネタが飛んでリカバーできなかったというか、華麗な着地を目指して派手に失敗した観がある。しかし、とにかく筆力も本格力もあるんだから、いまから1章まるごと差し替えることもできるんじゃないか。そもそも『このミス』大賞の場合、第1回大賞(銀賞)の東山彰良『逃亡作法』以来、大幅改稿を前提にした冒険的な授賞は伝統になっているではないか。可能性に賭けよう!
 ――ということで、侃々諤々の大議論を経て、ついに『十三髑髏』の受賞が決まった。読めばわかる通り、どう見てもメフィスト賞を受賞して講談社ノベルスから出るタイプのミステリなんですが、聞くところによると、ずっとメフィスト賞に応募していたのに全然ひっかからず、本書の元型になった原稿も同賞の一次落ちだったらしい。いったいどっちの判断が正しかったのか? 答えを出すのは(これから必死で改稿することになる著者と、来年1月に出る受賞作を読む)あなたたちです!

 この『十三髑髏』旋風の前に優秀賞に甘んじたのが、エンターテインメントとして完成度の高い(ほとんどそのまま本にできそうな)2作。
 最終選考第1回投票のポイントでは『十三髑髏』を上回っていた『カグラ』は、遺伝子型のバイオSFサスペンスとしてたいへんよくできている点を高く評価して大森がAをつけた作品。しかし、登場人物が類型的だとか、悪役登場からの後半の展開がパターン通りでマンガ的だとかの欠点を指摘され、一歩及ばず優秀賞という結論に。前にも書いたとおり、トマトのウイルス病から出発してだんだん話が大きくなり、ついには世界全体を滅ぼしかねない巨大な危機に主人公が立ち向かうことになる展開はすばらしくよくできているし、バイオSF的な設定も非常に優秀。それこそ藤井太洋のデビュー作『Gene Mapper』を思い出したくらいだが、そのあたりの加点部分については賛同の声があまり得られなかった。私見では、バイオサスペンスのリアリティとエンタメ的なサービスおよびわかりやすさがギリギリ両立した作品だと思うのだが……。
 田村和大『自白採取』はたいへん完成度の高い、しっかりした書きっぷりの警察小説で、このまま本になっておかしくないレベル。途中、おいおい大丈夫かよと思うところがあるんですが、扱いのむずかしい題材を非常にうまく処理して、サプライズと納得感のある結末に導く。新人の作品とは思えないほど堂に入ったストーリーテリング。群雄割拠の警察小説界でも、即戦力として期待できそうな才能だ。
 というわけで、例年であれば、派手な理系サスペンスの『カグラ』か、まとまりのいい警察小説の『自白採取』か、どちらかに大賞を……という結論になりそうなところだが、最終的に結果を左右したのは、候補作を読んだときの“驚き”の大きさだった。従来路線を踏襲して無難な作品を選ぶのではなく、いろんな意味であっと驚く大賞受賞作を出したい。激論が続くうちにしだいにそういう空気が生まれて、『カグラ』と『自白採取』は優秀賞、大賞は『十三髑髏』に――という意外な結末にたどりついた。この判断が正しかったかどうかは、いずれ刊行される3冊をぜひ読み比べて判断してください。

 等々力亮『生態系Gメン』はメインのネタが外来の危険昆虫ということで、ヒアリ上陸が連日のようにニュースでとりあげられるいま、たいへんタイムリーな作品じゃないかと思ったんですが、川瀬七緒『法医昆虫学捜査官』と設定がかぶるという指摘があり(二次選考でもありました)、大賞には推しにくいという結論に。編集部の支持は非常に高かった作品だし、題材はものすごくおもしろいので、これもぜひ本にしてほしい。
 薗田幸朗『千億の夢、百億の幻』は、AIを教育する話に殺人がからむ。SF方面では、この種の題材はさんざん描かれていて、AIに小説を書かせるという作品にも先行作があるし(たとえば、長谷敏司『あなたのための物語』)、作中で触れられているとおり、現実にも日経「星新一賞」でAIが書いた(ただし人間の手も入っている)応募作が一次選考を通過したニュースが昨年大きく報じられた。そういう現実を踏まえたうえで書いたにしては作中のAIが優秀すぎるのだが、そこには目をつぶって、話作りの面白さを評価した……つもりだったが、人間がらみのエピソードやキャラクターについても異論が出て、早い段階で候補からはずれることに。大改造のプランも出たが、うまく改稿して出版に漕ぎつけることを祈りたい。

 ということで、どれも本になりそうな個性的な5作の中で、もっとも個性的な作品が大賞を受賞した。ちなみに今年は、どういう風の吹き回しか、江戸川乱歩賞も、横溝正史ミステリ大賞も、日本ホラー小説大賞も、新潮ミステリー大賞も、大賞受賞作なし。その中で、思いきり強烈な『十三髑髏』を大賞に選ぶことができたのはたいへん幸運だった。もっとも、『このミス』大賞の歴代大賞受賞作ではまったく似たものがないタイプなので、読者のみなさんにどう受けとめられるか、そもそもこれからの改稿がはたしてうまくいくのか、かつてないほどハラハラドキドキしている。乞うご期待。

香山ニ三郎

どれも刊行可能レベル 佳作揃いの最終選考

 今年の最終候補作は二作減って五作。二次選考でうまく票がまとまってよかったよかったと思ったのも束の間、やがて誤解だったことが判明するのだが、詳細は後述するとして、いつものように読んだ順に講評を。
 まず等々力亮『生態系Gメン』は環境保護活動を行う環境省の外郭団体「生物多様性監視機構」に瀬戸内の島でシジミチョウの一種が激減しているとの報が入り、職員の桐生律子と新人の宇土育夫が現地に飛ぶ。地元ではスズメバチの犠牲者も出ていたが、不審な点は見つからない。だがやがて老人が昆虫らしき生物に襲われて亡くなる事件が起きる。
 主役コンビが河川敷で調査をしている出だしから、こなれた語りが印象的。と同時に、既存のミステリー作品と作風が似ていることにも気づかされる。川瀬七緒の法医昆虫学捜査官シリーズだ。島で起きている謎が解明されていく展開には奇抜な技が繰り出されるわけではない。語りもキャラ造形もプロはだしだが、川瀬作品をしのぐ決め技に欠けるというか、そもそも実力派の人気作と比べられてだいぶ損することになった。授賞は無理でも隠し玉の資格は充分あり。
 水無原崇也『十三髑髏』は場違いの工芸品オーパーツの鑑定士を自称する男子学生とそのそっくりさんである相棒がオ―パーツ絡みの犯罪事件に挑む連作スタイルの本格もの。主人公・古城深夜と鳳水月の掛け合い漫才が面白く、水晶髑髏が集められた邸で殺人が起きる冒頭の表題作も島田荘司ばりの仕掛けでインパクト充分。四話構成で最後のほうはオーパーツの鑑定話とはちょっとずれていってしまうが、アイデアは豊富のようだし、作者の年齢を考えてもこの先の活躍が大いに期待出来そうだ。優秀賞の有力候補か。
 田村和大『自白採取』は警察捜査小説。モデル殺しを捜査していた警視庁捜査一課の飯綱知哉は、出頭した容疑者に異議を唱え捜査から外される。あてがわれた神田署管内の交通事故の捜査は、バイオテクノロジーを研究する会社の車から男が飛び出し対向車とぶつかったが、再び車で連れ去られたというもの。社用車の盗難届を出した八ヶ岳の研究所に赴いた飯綱は所長たちの虚偽を見抜き、程なく四谷の施設から事故被害者を保護するが……。
 飯綱が腕利き捜査官ぶりを発揮する前半は快調のひと言。保護された少年のDNAに関わる謎が呈示されるところにも興奮させられたが、使い古しの題材が浮かび上がってきたところで興醒め。それを使った策略にはヒネリが効いていて、表題の意味にも納得させられるが、いちど醒めたものは元に戻らなかった。警察小説の新たな書き手としては期待が持てるし、これまたいい隠し玉になりそう。
 薗田幸朗『千億の夢、百億の幻』はのっけから時間を止める少年が登場するSFサスペンス。その少年「ぼく」の「学生時代」の章と、大企業で人工知能を研究する新谷直人の開発譚――「現在」の章と、新谷の一人称で生活が綴られる「研究ノート」の三部構成になっていて、各々がどう収れんしていくかがポイントだ。各パートでも、うぶい恋愛譚あれば、AIの暴走劇あり、AIに小説を書かせる小説内創作もありと言った具合に、多彩な趣向で読者を引っ張っていく。選考会では大森望にリアリティなしとばっさり斬られてしまったが、ワタクシ的には実現は遠い先でも可能性さえあれば、AIに小説を書かかせるのもありだ。
 この作者については、何よりもまず昨年最終候補となった国際冒険小説から作風をガラリと変えてみせたことに拍手。哀切なラストもいいし、これを推さずして何を推すのかというわけで、今回のイチオシはこれ。
 最後のくろきとすがや『カグラ』は『生態系Gメン』の植物版というか、九州でトマトが枯死する病気が流行り、帝都大学の植物病理学者・安藤仁が農林水産省に請われ現地調査するところから始まる。安東は発見したウイルスの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」の協力で進めるが、そんな折り、トマト製品等の製造販売会社クワバの研究所に勤める旧友が変死。彼は熟さず腐りもしない新種カグラを研究していたが……。
 ということで、こちらは永井するみのデビュー作『枯れ蔵』を髣髴させる農業系サスペンスだ。バイオテクノロジーを駆使した新種開発戦の黒い内幕を国際謀略も絡めて手際よくまとめた作品で、あっと驚く趣向や展開はないものの、モモちゃんの主役を食う活躍もあったりして、これまた優秀賞候補。
 いろいろいちゃもんをつけましたが、今回は佳作揃いで気をよくして選考会に臨んだ。――が、結果は予想に反して票が割れた。後で聞いたら、二次選考でもやはり割れたが、割れかたがよかったのだとか。何だそれ。かくてひとりも×を付けなかった『十三髑髏』が再浮上、作者の将来性も買っての授賞と相成った。薗田作品は授賞に至らず申し訳ないが、その実力の程は文庫化されたあかつきに直にお確かめいただきたい。

吉野仁

“オーパーツ”探偵がさらなる高みへ大化けすることに賭けて

 二〇一七年は、江戸川乱歩賞を筆頭に、横溝正史ミステリ大賞、新潮ミステリ大賞など公募のミステリー系小説新人賞がのきなみ「受賞作なし」となった年だ。十六回目を迎える本賞は果たしてどうか。しかも本賞の設立者にして選考委員のひとり茶木氏が抜けてから初めての回である。
 結果から言えば、選考委員三人それぞれの強く推す作品とまったく評価しない作品がきれいに分かれてしまった。そのため、欠点難点は指摘されながらも総合的に支持された『十三髑髏』が条件付きでの受賞作となったのだ。
 その『十三髑髏』は、オーパーツ鑑定士である若者が名探偵役として登場し、彼と瓜二つの顔をした男が相棒役となる本格探偵小説。四つの事件が扱われた連作集だ。およそ虚構性が強く、いささか戯画化された作品設定ながら、その独特な世界観や個性的なキャラ、風変わりな事件に軽妙でテンポのいい話運びなど、すべてがバランスよく読ませていく。とくに三話までがいい。大学生にして謎の物体(オーパーツ)をめぐり世界を駆けまわったり、富豪から鑑定依頼に別荘へ招かれたりするなど、つっこみたくなる部分もいくつかあるが、そういう指摘が野暮に思えるほど読ませる力がある。それぞれ蘊蓄はもちろん、奇抜なトリックを問答無用で愉しんだ。しかし、二次予選でも指摘されたとおり、ドイツが舞台でグリム童話がらみの猟奇連続殺人をあつかった最終話だけは前の三話から見ればいささか異質な感触が強い。大がかりな話にするため、強引な意外性決着をつくった感がぬぐえないのだ。このままでは大賞受賞は難しい。ならば、この最終話を全面的に書き換え、それで水準をこえるならば文句あるまい、ということで大賞決定となった。他の候補作の評価がそれぞれバラバラとなったのも本作が受賞した要因かもしれないが、決して単なる消去法で選ばれたわけではない。作者は書き直しの要望にこたえ、より傑作に仕上げる実力を十分に持っているに違いない。
 次に、残念ながら優秀賞にとどまった『自白採取』。これは殺人および奇妙な誘拐事件から始まる警察小説である。捜査ものとしての読みごたえがあるうえ、きわめて大胆な事件を扱った驚きとともに、作品そのものから熱気や迫力が伝わってきた。ゆえにわたしは高得点を与えた。ただし文句なしの最高点A評価とは言えず、いくつかのご都合主義的な展開が気になったのに加え、ところどころ長い科白が続くなど構成の粗さを感じた。娯楽小説ならではの読みやすさに気をくばり、強弱のアクセントをつけ、先を読ませるためのサスペンス手法をより徹底的にこころがければ最強だろう。そうなれば、新たなる警察小説の書き手として活躍することは必至だ。
 もう一作の優秀賞『カグラ』は、トマトが枯死する原因を植物病理学者の主人公が探っていくと恐ろしい事件に巻き込まれていくサスペンス。わたしは残念ながらいまひとつの評価だった。登場人物の造型があまりに類型的だったり、都合よすぎたりするところが難。とくにゲイである天才バイオハッカーの超人的な仕事によりみな解決してしまうとの展開はあまりに安易で乱暴すぎないか。背後の陰謀、もしくは暴漢の襲撃など、なにか現実味に乏しく感じられた。それでも小説自体は全体的にしっかりと書かれている。欠点を直し、細部を磨き、より面白い作品へ仕上げることを期待したい。
 受賞とはならなかった二作のうち『生態系Gメン』は、希少な動植物の保護や外来種の防除などを行う独立行政法人の職員コンビが活躍する物語であり、瀬戸内海の小さな島で起きた事件をめぐるサスペンスだ。希少生物もしくは外来生物に関する蘊蓄や展開は興味深く面白いものの、地方の島の実情にからんだ事件および人間ドラマの部分がやや弱く感じられた。また選考会では、類似した題材を扱っているミステリとして、川瀬七緒による〈法医昆虫学捜査官〉シリーズの話題が出た。特殊で目新しい題材をテーマにするだけではなく、いかにミステリやサスペンスとして面白く展開させるか、参考にしてほしい。
 『千億の夢、百億の幻』に関しては、もっとも肝心な「AIがミステリを書く」部分の安易さ、冒頭で示される「ここぞというときに物が止まって見える」能力の扱い、殺意の動機が弱いのではという疑問、さして重要とは思えないエピソードが長く濃く描かれる不自然さなど、問題点がいくつもあり、厳しい評価となった。簡単に言えばご都合主義すぎるという指摘だ。アイデアに説得力をもたせる工夫と全体の構成を考えて欲しい。