第18回『このミス』大賞1次通過作品 ヒュプノでしかEGOに読ませられない

人類が怪物に襲われて50年が経過した2105年。
催眠術専門の学園で、催眠術を駆使して生徒たちが推理合戦を繰り広げる。
意外性に満ちた近未来ミステリ。

『ヒュプノでしかEGOに読ませられない』蝋化夕日

 2105年の物語である。世界中に200体以上が出現した謎の巨大生物EGO(Extraordinary Ghost Octpus)に人類が襲われてから50年が経過していた。もちろん日本もEGOに襲われ、1/4が機能を失っていた。EGOには、矢も鉄砲も効かない。あらゆる近代兵器が一切役に立たないのだ。危機に追い詰められた人類が発見した攻撃方法は、なんと催眠術だった。かくして催眠術を専門とする学園が設立され、生徒たちを育成することになったのである。
 吾妻福太郎は、パートナーのイプシロンとともに催眠術専門学園エスペリオンで学園生活を送っていた。いよいよ卒業試験を受けることになった福太郎だが、試験期間の二日目に事件が起きた。同じく学園の生徒である鋼堂タケシが死体で発見されたのだ。そして福太郎はその犯人として名指しされてしまう……。
 背景となる設定はとんでもないが、この作品は、その世界を緻密に構築することを主題とはしていない。本書の中心に据えられたのは、催眠術の使い手が集う学園での推理合戦である。それがなかなかに愉しいのだ。催眠術を攻撃力と防御力で数値化し、それで闘いながら、登場人物たちは推理を進める。真実しか喋れないという催眠術を攻撃可能な相手にかけたりしながら、彼らは手掛かりを集めていくのだ。著者はここで、どんな催眠術をかけるかという観点でたっぷり愉しませてくれる。「そうか、その手があったか!」という興奮を堪能させてくれるのだ。
 そして終盤で、著者はさらに大技を仕掛けてくる。それまでに描かれてきた推理合戦とは、本質的に異なる次元で、読者に迫ってくるのだ。そしてこの大技を仕掛けるにあたり、EGOの存在をしっかりと活かしているのである。いやはや、嬉しい驚きだ。
 なお、手垢のついたトリックが一つ使われているが、それをこの作品の世界観と結びつけるというアイディアは新鮮である。

(村上貴史)

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