第18回『このミス』大賞1次通過作品 レナードの詐術

教会で相次ぐ不審な事故。
天正少年遣欧使節が持ち帰った写本に隠された真相とは……?

『レナードの詐術』小塚原旬

 仕事を辞めて大学院を目指す圭一は、昆虫好きが縁で、ネットを介して博物館職員の副島と親しくなった。圭一は直接会うのを楽しみにしていたが、副島は「見せたいものがある」というメールを送った後に転落死していた。副島の住んでいた栃木を訪れた圭一は、副島の妻から、彼の死の直前の様子を知らされる。副島が最後に訪れたのは、彼の旧知の人物が助祭を務める教会だったという。その教会に向かった圭一は、風変わりな修道女と出会い、やがて彼女とともに教会に起こる不穏な事件に巻き込まれてゆく……。
 教会で連続して起きる落下事故。その真相を探る物語だが、背景には意外な広がりがある。それが、各章の冒頭に挿入される、約400年前の物語だ。天正少年遣欧使節の一人・千々石ミゲルがヴェネツィアで手に入れた写本。「ユダによる福音書」とはいったい何か……?
 400年前と現代、2つの時代にまたがって大風呂敷を広げるストーリーだが、その展開はいたって堅実だ。現代の日本に生きる人々のさまざまな思惑と、過去の写本の存在とが絡み合い、物語の骨格を作り上げている。
 人物造形も印象に残る。圭一は実直で善良、いたって真面目な人物。彼が出会う修道女・まなは、「修道女」のイメージからは離れた、関西弁でまくしたてる威勢のいい女性。対極にある主役二人の会話が、物語を引っ張っていく。物語の中心はあくまでも事件の真相追求だが、二人の関係の進展も、物語の中で大きな役割を担っている。
 随所に仕掛けられた伏線とその回収も、派手ではないものの丁寧だ。背景のスケールに比べると地味な着地を見せる物語だが、途中のささやかなエピソードを拾ってみせるラストは心に残る。

(古山裕樹)

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