第18回『このミス』大賞1次通過作品 プラチナ・セル

自宅には、見知らぬ死体と、俺に宛てた警告。
なぜ俺が巻き込まれたのか?

『プラチナ・セル』佐竹秋緒

 帰宅した俺は、リビングのソファーに見知らぬ男の死体を発見する。テーブルの上には長文のメモが残されていた。メモは俺に宛てた警告だった。父に連絡せよ。家を出て安全な場所に避難せよ。最近近づいてきた人物を疑え。連絡をとってはならない。報道に注意せよ。見知らぬ者から逃げろ。俺がうろたえる中、東京で暮らす父が唐突に帰ってきた。だが、父は死体もろとも姿を消し、俺はひとりで謎の事態に立ち向かう……。
 きわめてインパクトの強い幕開けだ。何らかの謀略に巻き込まれてしまった男が、どうにかして状況を切り開こうと奔走する物語である。身近な人間の、意外な正体が明らかになる。当たり前だった日常が、一瞬にして非日常と化してしまう。とはいえ、そんなサスペンスフルな状況にすぐに馴染めるはずもなく、主人公はなんとか日常を維持しながら状況に立ち向かおうとする。
 かくして主人公は、こんな状況にもかかわらず、スーパーで買物をして自宅で食事を作り、店に入ればコーヒーの値段を気にして、日常のテンポを崩さない。見知らぬ男に意外な事実を告げられようとも、日々の暮らしは続いていくのだ。妙なゆるさのあるサスペンスである。「サスペンス」とは不安や緊張が続く物語であることを思えば、矛盾した表現だが……。
 これが退屈な物語にならないのは、軽快な語り口に負うところが大きい。とんでもない状況に放り込まれながらも、主人公の心にはどこか余裕があり、その語りがユーモアを感じさせる。
 国家レベルの謀略だが、着地は意外にマイルドだ。丁寧に組み立てられながらも、どこかゆるさを感じさせる、独特の印象を残す物語だ。

(古山裕樹)

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