第18回『このミス』大賞1次通過作品 親指ほどの

研修中の女医が主人公
ボヤキが得意というユニークなキャラ
患者の命を救うことはできるのか?

『親指ほどの』京家きづ

 女の研修医吉長遥(はるか)が主人公の、病院が舞台のミステリー。作者が医者だから医学用語の使い方など安定している。それなのに冒頭から関西弁の情けないボヤキで始めて、読ませる気がないのかと腹が立つくらい。これもそのうち主人公が成長した姿を見せるための伏線かなあと思うとそれらしくならないまま話が進む。なにしろ1ヵ月消化器外科の研修でいやになって、次の脳神経外科はもっとやりたくない、ただ美容整形に進みたいというのが望みだというのだから。
 指導医に初老の田中が付き、欲がなさそうなのに教授選に出るとか自宅で襲われたことがあるとか、少しずつ謎らしきものも出始める。それなのに魅力のある人物がひとりも出てこない。
 メインの事件は手術のときにガーゼを腹部に残してしまった犯人探しのようで、それも内輪でかばったことにより事態は悪化する。患者も医者も死んでしまうのに、登場人物の誰ひとり命の尊さに思いをはせない。
 このあたりで、ははあ医者の感覚のリアルさがそのまま描かれているのならこの異常さは読まれてもいいんじゃないか、と思えてきた。もっと極端にデフォルメすれば皮肉として通用するかもしれない。病院には毎日たくさんの患者が来るのだから、ひとりひとりを人間として見るわけにはいかないんだ、内輪の教授選など病院内部にしか関心はないんだというのが実情なんでしょう。まあこんな病院ばかりではないと信じたいけど。

(土屋文平)

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