第17回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也

『その午睡 The Sleepyhead』折輝真透
『彷徨える螺旋』竹田和玄
 
 昨年は今村昌弘『屍人荘の殺人』がシーンを席巻し、本賞も蒼井碧『オーパーツ 死を招く至宝』に「大賞」を授賞したこともあり、若い書き手による本格ミステリが増えるかと期待したが、とくにそうした盛り上がりもなかったようで、ちょっと残念……。

 それはさておき、今回も力の入った応募作を拝読させていただいたなかで気になった点を。

 まず、マフィア、CIA、宗教団体を都合よく雑に使った作品が多い。
 これらを出しておけば、多少無茶な設定や展開も許される――と考えているのだとしたら、それは大きな間違いだ。安易に使えば、たちまち作品が安っぽくなり、場合によっては作品全体の魅力をも失いかねない。扱いやすそうなものほど、取扱いに細心の注意が必要だということを肝に銘じていただきたい。

 勢いあまって線をはみ出してしまうような熱のある作品よりも、こぢんまりとして低温な作品が例年よりもさらに増えたように思う。
 勘違いされているのかもしれないが、型を破らず、従来のテイストに執着する必要はまったくない。
 プロットや仕掛けを存分に練り上げ、そしてそれ以上に登場人物たちに血を通わせることのために頭と筆と時間を目いっぱい費やした作品をお願いしたい。

 またこうして繰り返さなければならないのが悲しいが、作中にダジャレの類いを嬉々として盛り込むのは、本当にご遠慮いただけないだろうか。50代以上の応募者で該当する方は猛省していただきたい。腕の見せ所は、そこではない。

 “次回作に期待”は、偶然にも第2次世界大戦中のドイツが絡んだ2作品を。

『その午睡 The Sleepyhead』折輝真透は、暗殺を命じられた英国人スパイ、人間の贋作を作り出す博士、魂を転移させる機械《アオイ》、全人類を視野に入れた壮大な計画、鍵の掛かった部屋での殺人、死体に刻まれたロレーヌ十字……といった具合に盛りだくさんの内容で、「こういう作品を待っていた!」と感激。構成力もなかなかのもので、感心した。惜しい点は、ふたつ。まず、クローンや魂の転移といった架空の要素は、戦時下のドイツの描写や説明をより厚みのある真に迫ったレベルにしないと絵空事のままで、輝き、活きてこない。もうひとつは、物語にはそれぞれ適したトーンがあり、そこが定まっていないと大いに興を削ぐことをお伝えしたい。せっかくのこの内容で、たとえば「ハハハ、ウケる」といったセリフは、やはり水を差すだけでそぐわないだろう。スケールの大きな読み応えのあるエンタテインメントを書ける優れた才能をお持ちの方だと断言する。さらなる物語で、ぜひ再挑戦していただきたい。

『彷徨える螺旋』竹田和玄は、昭和43年、元外交官の主人公がルバング島で撮影された1枚の写真から、敗戦間際にヒトラーが完成させたという最終兵器の謎に迫っていく内容で、こちらは物語に適した硬質なトーンが最後まで貫かれ、大人の読み物としての安定した筆致に好感を覚えた。とはいえ、驚くべき長距離の狙撃を成功させる元日本兵、CIA傘下の研究機関、クライマックスのアクションと展開等々、どうにも目新しさに乏しく、懐かしいものを読んだという以上の感想を持つことができなかった。いまこうしたタイプの物語を世に打ち出すなら、そこに明確な現代性が盛り込まれていなければ意味がない。筆力は一次選考を余裕で突破できるレベルで、申し分ない。二〇一〇年代の読者に息を呑ませ、胸を熱くさせることをより強く意識して、再度のご応募を心よりお待ちしている。

 最後は毎度毎度の、いつもの言葉で。
「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」
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