第17回『このミス』大賞1次通過作品 鴉の眼

政府に「削除」された少女はどこに。
強大な監視社会をめぐる攻防戦、その結末は……?

『鴉の眼』水木玖宣

 近未来の日本を舞台にした謀略劇である。
 最近ではAIやロボットが登場する作品もそれほど珍しいものではなくなった。この作品は、そういった題材を直接扱っているわけではないけれど、テクノロジーによる政府の情報監視を背景に据えている。
 秋葉原で探偵稼業を営む久世が受けた依頼は、九年前に失踪した娘の捜索。依頼人は彼女の母親だ。ネット上では、娘の情報はなぜか完全に抹消されていた。徹底した情報削除ができるのは政府だけ。どうやら国家機密と関わりがあるらしい。久世は政府の情報監視をもすり抜ける技術を持つハッカーにアクセスする。ハッカーは娘の情報と交換に、久世に「運び屋」としての仕事を要求した……。
 探偵が引き受けた不穏な仕事と並行して、セキュリティ企業で起きた密室殺人、さらに政府が極秘で進める情報監視プロジェクトが絡み合い、事態は二転三転する。
 複数の事件を並行して語りながら、徐々に加速させながらやがて大きな一本の流れにまとめていく。次から次へと状況を変化させて勢いを作り出し、読者を物語の流れに引き込んでいく。人物描写は淡白ではあるが、多数のキャラクターを、読者を混乱させることなく動かしてみせる。冒頭に描かれるVTOL機や巨大施設も、物語の中でうまく活用してみせる。
 正直なところ、いくつか大きな欠点もある。唐突に思える展開もある。登場人物の過去に関する重要な部分を、読者の想像に丸投げしているところもある。それでもなお、入り組んだ物語をスピーディーに展開してみせる手腕を評価しておきたい。

(古山裕樹)

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