第17回『このミス』大賞1次通過作品 ア・ドール

「息子」を信じる「父」は、嫌疑を晴らすために奔走する。
追求の果てには、思いもよらない真実が……。

『ア・ドール』斉木円

 地道ながらも読ませる小説である。
 元警察官の津島は、保険会社の調査員。ある日、別れた妻の連れ子・祐貴が逮捕されたと知らされ、ショックを受ける。四年前、薬物事件で有罪判決を受けた後、彼は更生の道を歩んでいると信じていたのだ。事件の夜、祐貴は出会い系サイトで知り合った女性とアパートの自室にいて、危険ドラッグを服用していた。そして、記憶のない状態で彼女を撲殺した、とされていた。だが、彼は全面否認していた。犯行当時、現場には謎の男女がいたと言うのだ。警察はドラッグによる幻覚とみなす。だが、津島は祐貴を信じる。元妻や同僚の力を借りて、現場にいた男女を探し、ドラッグの供給源を探ろうとする……。
 圧倒的に不利な状況で、「息子」の嫌疑を晴らすために地道な調査を重ねる「父」の物語である。ごくわずかな手掛かりをたどって、一歩ずつ真相へと近づいていく。地を這うような捜査の過程を、小さな積み重ねのひとつひとつをじっくり描いて読ませる作品である。もちろん、ただ地道なだけの物語ではない。祐貴の起訴というタイムリミットが設定された調査であり、物語はその期限へと向かって収束する。さらに、津島が調査を続ける合間に、謎の女性の視点からの叙述が挿まれる。単純に見える事件の奥底に、何かが潜んでいる。そんな秘密の存在をほのめかしながら進む物語は、やがて意外な展開を見せる。
 ストーリーの組み立ても悪くないが、登場人物も印象に残る。主人公の津島は、祐貴と血の繋がりはないけれど、「父」として彼の無実を信じ、真相を追求する。そんな彼の心情をストレートに語るのではなく、祐貴がふと思い出す少年時代のできごとなど、小さな断片を通じて描きだす。彼の行動の動機を、原動力を、巧みに読者に伝えてみせる。だからこそ、中年男性が街を歩き回るだけの場面が、焦燥に満ちた追求の場面として立ち上がる。
 しっかりした人物描写という土台の上に、調査のディテールが、そして意外な展開が積み重なっている。冒頭の繰り返しになるが、地道ながらも読ませる小説である。

(古山裕樹)

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