第17回『このミス』大賞1次通過作品 コールド・ソイル

人身売買組織が曲げてしまった人生。
世界の不条理に、それぞれのやり方で対峙する男女の物語。

『コールド・ソイル』澤江晋平

 ロシア・マフィアも関わる人身売買を背景に、人生のルートを大きく曲げられた人々の運命を描いている。
 週刊誌記者の澪は、新宿で起きた凄惨な殺人事件を追いかけていた。被害者はロシア・マフィアと繋がる人身売買組織と関わっていたが、犯人探しは難航していた。澪はやがて、四年前に起きた殺人事件のことを知る。同じように人身売買に関わっていたとされる男女が、きわめて手際よく殺されていたのだ。時代は遡って、一九九三年。ケンゴは人身売買組織に売られ、ロシアに送られた。小児性愛者のパーティで起きたある事件が、絶望の中にいた彼の運命を大きく変える……。
 背景にあるのは、ソ連崩壊から現在に至るまでのロシア情勢と、ウクライナの内戦。そこに人身売買ビジネスという闇が絡み合い、登場人物たちの運命を翻弄する。日本とロシア、過去と現在を往還しながら、緻密に組み立てられたストーリーが語られる。互いに関わりのありそうな事実が徐々に浮かび上がり、登場人物の行動を通して、それらのつながりが次第に明らかになる。全体像を切り分けて、断片を少しずつ提示して、読者をぐいぐいと引っ張ってみせる。
 起伏に富んだ物語を動かすキャラクターもまた、丁寧につくられている。主人公の澪は、幼少期に一家が遭遇した事件のため、押し寄せたマスコミの報道に家庭を破壊されてしまった過去の持ち主。売られてしまった少年ケンゴは、ロシアの地で過酷な環境を生き延び、成長する。世界の不条理に振り回された者たちが、それぞれのやり方で不条理に立ち向かう。内面の中心に抱えたものが、それぞれの原動力となる。目を引くストーリー展開を支えているのは、そうしたキャラクターのもつ説得力である。
 ディテールも丁寧。冒頭のささやかなできごとと、ささやかな品物が、終盤になって思わぬ形で回収される。ミステリ的な驚きとは別種のものだが、人物描写にさらなる膨らみを持たせている。
 バランスの取れた、読ませる物語に仕上がっている。

(古山裕樹)

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