第17回『このミス』大賞1次通過作品 殺戮図式

序盤は無難に書かれた連続老女殺人事件。
だが、中盤で突如化ける。全く新たな構図が現れる衝撃を堪能せよ!

『殺戮図式』猫吉

 平成12年9月8日。71歳で無職の植田ツネが殺された。手には「歩」を握らされ、ポケットには「銀」を入れられて。
 そして9月23日には、75歳の高倉純江が殺された。遺体からは、植田ツネのときと同じセットのものと思われる将棋の駒が発見された。「歩」だった。
 愛知県警捜査一課の水野優毅も、この高齢女性連続殺人事件の真相究明を進めるチームの一員だった。彼女は、所轄の佐田啓介とコンビを組んで懸命に捜査を進めていたが、そんな矢先、またしても事件が起こった……。
 序盤は、普通の連続殺人だ。老女が殺され、さらに老女が殺され、それを警察が捜査していく。二つの殺人の共通点が将棋の駒という点に幾ばくかの新鮮さを感じるが、物語の構図としては、警察が事件を捜査しているに過ぎない。一次選考担当としては、この段階では、無難に書き進めているだけという印象であった。
 だが、中盤に差し掛かるあたりで、大きな衝撃が待ち受けていた。事件の様相ががらりと変化したのである。この発想の転換がなんといっても素晴らしい。それまでとは全く異なる謎が突如として登場する衝撃は、“無難”とはほど遠いもの。ミステリ読者を嬉しくさせてくれる一撃であった。ちなみにこの衝撃は、ある図を用いて表現されている。本をぱらぱらめくっていると、ついつい目に飛び込んできてしまうタイプの表現だ。幸いなことにそれをやらずに読み進んでいたので、十二分にこの衝撃を味わうことが出来た。この衝撃の演出はとにかく鮮やかなのだが、その後の終盤には、いささか不満が残る。水野優毅の独りよがりな行動が目に余るのだ。刑事であるにもかかわらず、私的な単独行動が多く、大丈夫かと心配になってしまう。最終的な着地点は悪くないだけに、このあたりは改善が必要だろう。
 改善といえば、事件の特長を表現するために、ミステリの古典のネタを明かしているのもよろしくない。有名作品ではあるが、未読の方への配慮は不可欠。もちろん修正は十分に可能な問題点だが、ミステリを書く際の基本的な心構えでもあるだけに、気になった。次の作品を書かれる際には、留意して戴ければと思う。

(村上貴史)

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