第17回『このミス』大賞1次通過作品 グレートクリムゾン

2017年に北海道で発見された白骨は、
沖縄の返還が進められる昭和の秘史へと読者を誘う。

『グレートクリムゾン』木幡泰昇

 本條勇人は、北海道は釧路に本社を置く釧路タイムスの記者である。オホーツク海に突き出た野付半島の遺跡を巡るツアーに同行取材していた彼は、ツアー客とともに白骨死体を発見してしまった。白骨死体は古いもので、その傍らからは1969年頃のものと思われるフィルムも見つかった。だが、そのフィルムに関する警察の扱いが妙だった。違和感を覚えた本條は、白骨死体の正体について独自の調査を始める……。
 物語の時代設定こそ2017年だが、中心に据えられているのは、沖縄の返還を巡る1969年頃に根っこがある事件であり、そのため、いくぶん古さを感じる小説ではある。さらにいえば、主人公である本條も、一匹狼の新聞記者という、これまた古さを感じさせかねない設定だ。だが、本書においては、それらは特段の欠点とはなっていない。沖縄返還の頃の出来事は、年月によって成熟させられることで、きちんと冷静に評価できるようになっているし、本條にしても、四十八歳という年齢からくる落ち着きを備えた一匹狼となっている。激情で突っ走るのでもなく、浮かれるのでもなく、しっかりとした大人のエンターテインメントとしての安定感が、この小説には備わっているのだ。
 それ故に、釧路を拠点とする本條が日本のあちこちに足を伸ばし、それこそ沖縄にまで出かけたりしていても、その行動に浮ついたところはなく、また、その本條を描く筆致にも浮ついたところはない。読者は、安心して彼の調査を愉しむことができるのである。この落ち着きは、新人賞応募作品では、なかなか味わえない感触だ。
 そのうえで、作品は後半に入ると、表情を大きく変える。語り手が交替するのだ。交替の瞬間こそ若干戸惑うが、そこから先は、前半にも増して物語が走り出す。ストーリーは筋肉質に引き締まり、緊張感もさらに増す。夢中になって読まされるのだ。羽田から釧路へ。後半の主人公たちは命がけで突っ走る。その刺激たるやもう最高。列車、船、車。冒険のスリルに満ちているのだ。駒の背景について、いささか風呂敷を広げすぎの感はなくもないが、作品の世界観を破壊するほど突飛ではないので、許容範囲としたい。
 前述の古さはあるものの、現代でも全く問題なく楽しめる一作であり、なおかつ、作者の力量、つまりは安定感と疾走感/焦燥感の両面を書きうる能力を感じさせる一作であった。

(村上貴史)

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