第17回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史

『いちゃりばちょーでー』宮本豊司
『chief.com』戸田光太郎
 
 今年の一次選考は、自分の担当分についていうならば、判断にはさほど迷わなかった。二次選考に残すものとそうでないものが、例年以上にはっきりしていたのである。
 たとえば、二次選考に残さなかった『いちゃりばちょーでー』である。洋上の嵐のシーンや、様々な肉弾戦などがあり、冒険小説という“属性”はたしかに備わっている。しかしながら、これは一人の魅力的なヒロインが琉球独立を目指し、第二次世界大戦前後を生きていく姿を描くことを本質とした小説であるように思う。冒険小説として仕上げるのであれば、前述のシーンはあまりにあっさりとしすぎていて物足りない。一方で、主人公が様々なキーパースンの人心掌握を進めていく様子や、それでもなおかつ大きな苦難に行き当たって悩む様などはしっかりと描かれており、やはりこっちがメインなのだろうと思ってしまうのだ。筆力はあると感じられるし、また、昨年の応募作に対してのコメントも今回の応募作に適切に反映されていて作家として他者の意見に耳を傾ける柔軟性も感じられた。この賞を狙うなら、募集要項に記されている「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」をもう一度認識すべきだろう。あるいは無理にこの枠に合わせて仕上げるのではなく、御自身の作品に相応しい別の賞を目指すのもよかろう。いずれの選択肢をも肯定しつつ、“次回作に期待”だ。
『chief.com』も同様の理由で二次審査に遺さなかった。こちらの魅力は、少年が成長していく一夏の日々の描写にある。博学で自由な発想を持つ年長者のもとで過ごし、そこに集う様々な年齢の人々との会話を通じ、あるいは、薪割りの体験などを通じて主人公が成長していく姿を読むのは、実に愉しい読書だった。しかしながら、これではミステリにならない。そこで著者はミステリ要素を作品に投入しているのだが、この部分が相当に本体と乖離している。終盤でそこそこ交差するが、一筋に合流するというほどではない。身も蓋もないいい方をすれば、本賞の応募要項に合わせるために体裁を整えたように見えてしまったのだ。ミステリ部分の魅力が弱いために、なおさらそう思えたのだろう。この作品も、『いちゃりばちょーでー』と同様の“次回作に期待”である。
 その他のミステリに軸足を置いた応募作では、次の三作を、“次回作に期待”の次点としたい。
 知的な雰囲気の刺激は味わえる渋川宙『未解決問題』は、真相がありきたりで全体を壊してしまった。また、オリジナリティという観点では、周木律に近すぎるように思う。
 岡辰郎『殺人戯曲』は、愉しく読ませてくれるのはたしかだが、あるところに集められた人々が殺し合うよう求められるという設定が新鮮さを欠く。もちろん著者なりに工夫されているが、世界がひっくり返る衝撃を追い求めるあまりサスペンスが薄れ、それを繰り返すことで物語が淀み、結果として衝撃も薄れてしまっていた。
 木山京『脆刃のカトラス』は、北中米での闘いの物語。筆力はあるし、キャラ作りも(類型的だが)効果的。しかしながら、ストーリーの魅力が不足していた。ドン・ウィンズロウの『犬の力』『ザ・カルテル』など読んでみるとよかろう。
 こちらの方々にも捲土重来を期待したい。
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