第17回『このミス』大賞1次通過作品 怪物の木こり

サイコパスの弁護士が、逆に襲われる
怪物のマスクをかぶった襲撃者
それは頭を割って脳を盗む「脳泥棒」!

『怪物の木こり』倉井眉介

 勝つためには手段を選ばない弁護士、二宮彰。彼はその実、殺人を犯しても全く良心の呵責を覚えない精神病質者であり、実際に自分に邪魔な人間を何人も殺してきたサイコパスだった。彼が人を殺して埋めた一週間後。仕事を終えてマンションへ帰ってくると、地下駐車場で怪物のマスクをかぶって顔を隠した男に襲撃され、斧で頭を割られかける。頭部に酷い打撲傷は負ったものの、住民が通りかかったために九死に一生を得た二宮は、サイコパス仲間で医者の樫野九郎の協力を得て、「怪物マスク」を捜し出し復讐することを誓う。
 一方その頃、猟奇的殺人事件が連続して発生していた。被害者は頭部を開かれ、脳味噌を持ち去られていたため、犯人は「脳泥棒」と呼ばれるようになった。大々的な捜査が行なわれ、警視庁捜査一課の戸城嵐子は、かつて捜査一課所属だったが現在は品川署に飛ばされている乾とコンビを組み、調査する。
 二宮を襲ったのも、この「脳泥棒」だった。そしてこれらのすべては、二十八年前の「静岡児童連続誘拐殺人事件」に端を発していたのである……。
 手に汗握る展開、衝撃的な要素、次々に起きる新たな事件と、読み始めたら止まらない。一次選考のハードルは、軽々と越えている。
 ちょっと気になったのは、本作で重要な役割を果たす技術が、我々の世界ではまだ開発途中であること。それがこの作品内世界では実用化されているのだから、違う時間線で物語は展開しているわけで、つまり大きく言えばSFと捉えられる。しかしそれ以外の科学技術に関しては違いが見られないので、そこに関するエクスキューズは欲しいかもれしない。
 また時間が足りなかったのか、終盤は急いで書いたような節があり、単純なタイプミスや人名の取り違えが散見された。提出前にいま一度読み返して確認するのは重要である。しかし二〇一八年の第六十四回江戸川乱歩賞でも別作品(『あかね町の隣人』)で最終候補作に残った作者だけあり、文章は達者だった。もし今回受賞に至らなかったとしても、近々プロ作家としてデビューできるであろう充分な実力の持ち主である。

(北原尚彦)

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