第17回『このミス』大賞1次通過作品 セリヌンティウス殺人事件

帰還したメロスを迎えたのは友の死
そして容疑者としての投獄
謎を解く探偵役は、哲学者プラトン!

『セリヌンティウス殺人事件』小塚原旬

 太宰治の代表作『走れメロス』。読んだことのある人は多いだろうし、読んでいなくても大体の筋は知っているだろう。かの名作文学をミステリーに仕立て直したのが、本作『セリヌンティウス殺人事件』である。
 走ってシュラクサイに戻ってきたメロス。だが友セリヌンティウスは獄中で殺害されており、メロスは犯人として捕まり、処刑されることになった。
 そんな折にプラトンはシケリアを訪問しており、ディオニシオス王と面会の末、意見の相違からセリヌンティウス殺人事件を調査することになってしまう。ディオニシオス王の義弟ディオンが、そのワトスン役に指名される。期日は、メロスに与えられた猶予と同じく、三日間。
 セリヌンティウスは牢獄の中にいたのに、どうやって殺されたのか。プラトンの捜査活動を快く思わない者たちにより、妨害活動も行なわれる。プラトンの友レオニダスとヨアニスも加わり、それに対抗する。プラトンの暴き出す真相とは。そして三日間と言うタイムリミットに間に合うのか……。
 紀元前四世紀を舞台とする、歴史ミステリーだ。探偵役は哲学者として有名なプラトン。しかも日本人ならみな知っている、あの「メロス」が殺人事件の容疑者なのである。『走れメロス』そのものが古代ギリシャの伝承に基づいているとはいえ、本作は太宰の小説と史実とを見事に融合させており、パスティーシュ、本歌取りとしてよく出来ている。
 一方、古い時代を舞台にした歴史ものであるがゆえに、ファンタジーにおける表記と同じ問題を抱えていることは指摘しておかねばなるまい。外来語として日本語になっている名詞であっても、英語由来のものを使っていいのか。距離をメートル法で表記していいのか、などである。これらについては要再考である。
 歴史ものだと、つい調べたことを全て書き込みたくなり、読者にとっては読みにくくなってしまうことがしばしばあるが、そこはきれいにクリアしている(冒頭だけはもうちょっとだけすんなり入りやすくした方がいいだろう)。タイトルは、もっと分かり易くてもいいかもしれない(たとえば『殺人容疑者メロス』など)。
 冒険要素、活劇要素もあり、バランスは取れている。筆力もしっかり備えているので、一次選考は通過させないわけにはいくまい。

(北原尚彦)

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