第17回『このミス』大賞 1次通過作品立ち読み ライク・ライカ

『ライク・ライカ』

朝倉雪人(あさくら・ゆきと)
帯広畜産大学卒。会社員。


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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 メーデー! メーデー!
 心の救難信号発信中! ……なんてね。          ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 ○月×日 本日モ通信試ミルガ 応答ハ無シ        ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 ワタシハ ドンナニ離レテモ イツモアナタノ周回軌道上
 ……バンプの歌だよ。覚えてる?             ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 なんか構ってちゃんみたいになってごめんね。
 まぁうちは元々、構ってちゃんだけども 笑        ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 しんみりしてるとこ、空気読まずに悪いと思ってるけどさ。
 でもこれくらい許されるしょ?
 だって、自分の葬式なわけだし……笑           ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 たぶん、っていうか確実に、みんながこれ読んでる時点で、
 うちはもう死んでるんだろうけどさ……。
 でも気にしないでよ。文字通り『天国』へ逝けたんだから。 ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 熊切来夏Bot @Like_Laika 0分前
 さて、みんながまさにお通夜みたいになってる所でぇ~
 問題です!! デデンッ!
 私、宇宙飛行士の熊切来夏《くまぎりらいか》は、なぜ死んだのでしょうか?
 そして……。
 最初に宇宙へ行った動物、
 『ライカ犬』は、いつ死んだのでしょうか? ⇒ 0 ⇔ 0 いいね 0
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 ディスプレイが青白く光る、暗い部屋の中。
 キーから指を放してパソコンを閉じると、その人影は外の世界へと踏み出していった。

      ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。
      その一つの星のなかで笑うんだ。
      だから、君が夜、空をながめたら、
      星がみんな笑ってるように見えるだろう。
                               サン=テグジュペリ
                              『星の王子さま』より

               第一章 天体観測

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 午前二時頃、北海道十勝振興局、広尾郡大樹町。
 既に廃線になっている旧大樹駅の駅舎を目指して、中学三年生の清田北斗は自転車のペダルを漕いでいた。リュックに入れた卓上型の天体望遠鏡が、自転車が揺れるたびに背中に当たる。
 ベルトに付けたポシェットに入れっぱなしのスマートウォッチは、自動で天気予報の音声を流している。どうやら雨は降らないらしい。でも気象庁じゃなくたって、この満天の星空を見れば晴れてることぐらい誰にでもわかる。
 北海道は十勝の田舎町、おまけに深夜ともなれば、辺りからは虫の鳴き声くらいしか聞こえない。しかし、まだ秋とはいえ北の大地の夜は寒い。パーカーとジーンズでは軽装すぎたかも知れない。
「おせーぞ北斗! もう一分前でしょ!」
「遅刻じゃないからいいじゃん」
「まーた『じゃん』とか都会くせぇ東京弁使いやがって」
「だから、俺は横浜出身だって」
「似たようなもんだべさ」
 何とも雑なくくりで話をまとめる傾向がある友人、大空勇利《おおぞら ゆうり》を含めて、旧駅舎前の広場には北斗の他にすでに三人が揃っていた。
 だが午前二時という集合時間を指定したリーダーは、まだ来ていない。
「おー待た! 集まりがいいじゃないか諸君!」
「『おー待た』じゃねぇよライカ! 二分遅刻でしょ! お前がいい出しっぺだべや」
 勇利は物事の分類は大雑把だが、時間には厳しい。
 一方のリーダー、熊切来夏《くまぎりらいか》は、今から野宿でもできそうな量の荷物を背負っていた。
「ごめんっ! 眠かった! だからしょーがない!」
「自己完結すんな。したら、集合時間もっと早めにしとけばイイしょや」
「いつものことでしょ。この前みたいに、一時間半遅刻しなかっただけ大目にみよーよ」
「一時間半はもう遅刻の次元じゃないけどな。流石はヤッシー。学年一位の秀才君は優しいね」
「やめろよ。気にしてんだよ、そういう学級委員長的なレッテル」
「でも学級委員長だべや、実際」
「まぁそうだけどさ」
 ヤッシーこと山鹿光太郎《やしか こうたろう》は、不満げに勇利に同意する。成績優秀な学級委員長にしてバスケ部キャプテンの彼は、北斗たちの通う大樹中学校では女子人気も不動の第一位だった。
 同じバスケ部でも、自分とは違うな。と北斗は思った。
 もっとも、彼が学校の女子たちに興味がないことを、北斗は誰よりも良く知っている。
「うわっ、北斗寒そー。学校のジャージ着て来ればイイのに。私の貸してあげよっか?」
「えっ? いや、その……」
 もう一人の友人、折茂芽衣沙《おりも めいさ》がジャージの上着のチャックを少し降ろし、その豊かな胸を強調する。目鼻立ちがはっきりして西洋人のような美形の顔だが、彼女は日本人だ。
「やめれやメイサ。北斗が引いてるべさ。お前みたいな不良が生徒会長とか、世の中色々間違ってんな」
「いやぁ、見栄えが良くて器用だからって、面倒な役職押し付けられちゃってさぁ。困ってんだよねぇ。美人で秀才なのも楽じゃないねー」
「他の女子の前でそういう発言すんのはやめとけよ? いつか後ろから刺されっからさ」
 悪気のない自信家の芽衣沙を、勇利がたしなめる。
「むぅー……」
「動物みてーに唸んなライカ。つーか目のやり場に困るから、人前で自分の胸を触んなよ。ほら、その……成長のスピードは人それぞれだからさ。まだメイサほどにはならねーよ。それよか二人とも、もっと羞恥心ってものを持てって」
「厳しいなぁ勇利は。委員長みたいだ」
「お前はもっと風紀的な部分を気にしれや。リアル委員長」
「っていうか、北斗はまだうちの学校のジャージ持ってないのか?」
「なまら自然にシカトするよなヤッシーは……」
「あっ、うん。もうあと半年ぐらいで卒業だし、前の学校のやつでいいかなーって……」
 十勝の中学校では、登下校時は制服ではなくジャージを着ており、制服は入学式や卒業式などの特別な行事の際にしか使わない。別に強制ではないので、北斗のように制服で登校する者も稀にいる。だがそのせいで、中学三年生になって横浜の学校から引っ越してきた北斗は、学校の中では少し浮いていた。
 あまり仲良くなっても、辛くなるかも知れない。
 そう思ったのも、買わなかった理由の一つではあったが。
「北海道における学校指定ジャージの汎用性を、キミはまだ理解してないようだね北斗くん……。これは動きやすくて、なんまら便利なのさ。放課後でも使い続けちゃうくらいに」
「着ていく服選ぶのがメンドかっただけだべ? ライカは」
「断じて違わない!」
「肯定か否定かどっちだよ」
「おっ、もうすぐ始まるっぽいよ。二人とも。さっき一個流れ星が落ちてった。予報は正確だね」
 山鹿がいった通り、また星が一つ流れていった。更に二つ、三つ、四つ。気付けば雨の如く流星が降り注ぎ始めた。

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