第17回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦

『悪徳の銃火』工藤弾
 
 まずは、今年の応募作の傾向から。『救済のネオプラズム』(岩木一麻)が二〇一六年(第十五回)『このミス』大賞を受賞したためか、「過去に落選した作品を書き直して投稿」したものが、例年よりも多かったです。そういう経緯の作品であることをきちんと書き記しておくのはよいことですし、改稿作で応募するのも自由です。ですが、『救済のネオプラズム』は過去の『完全寛解』の一部プロットを転用し、全く別の作品として執筆したものですし、『完全寛解』は少なくとも一次選考を通過しています。前回一次も通過しなかった作品の場合は、それを書き直すよりも、新作を書いた方が小説家デビューへより近づくのではないかな、と思います。どうせ改稿するならば、新作を書きつつ並行して過去作を直し、二作応募する、ぐらいの意欲を持ってみてはいかがでしょう。
 また、BBCドラマ『シャーロック』大ヒットを主要原因とする昨今のシャーロック・ホームズ・ブームのおかげか、リストを眺めるとホームズに関連する作品が例年よりも多かったです。例年は全くないか、あっても一作なのですが、今回は複数ありました。もしかしてもしかしたら、第一次選考でシャーロッキアンである北原尚彦に読んでもらうことを期待してらっしゃるかもしれませんが、担当作品は届いた順にナンバリングされ選考委員に割り振られるため、「これはホームズ要素があるので北原に」というような勘案はされません、念のため。それにわたしに当たったとしても、ホームズ物だから審査が甘い、ということはありません。かえって厳しく……はしないようにしています、不公平になりますから。とはいえ、「ホームズがブームらしいから、いっちょホームズで書いてみよう」ぐらいのきっかけでしたら、受賞はなかなか難しいかもしれません。どうせ書くなら、ホームズ愛を爆発させて下さい。いつか『このミス』大賞からホームズ・パスティーシュによる受賞作が出るようなことがあったら、非常に嬉しく思います。
 それから、今回担当した作品の中に、純然たる時代小説や、自伝的小説が複数ありました。どちらもそこにミステリー要素があれば(なくても滅茶苦茶面白ければ)『このミス』大賞向けでありますが、そうでないならば別な小説賞に応募した方がよいでしょう。作品にあった賞を選んで投稿するのも、受賞への早道です。
 さて、今回の「次回作に期待」作品は、『悪徳の銃火』(工藤弾)です。
 主人公「俺」の職業は、強盗。綿密に計画を練り、仲間の早田たちと犯行に及ぶ。伊勢志摩でサミットが開催されている際には、岡山で銀行を襲い、成功した。
 殺し屋のレオが麻薬取引現場で売人を殺すので、ヤクの売上金を盗めと話を持ちかけてきた。計画は無事に遂行したのだが、現場の雑居ビルの部屋から出た瞬間、隣の部屋から傷だらけの裸の少女が飛び出してきたのに遭遇してしまう。「俺」は少女「のりこ」を追ってきた男を殺し、彼女を連れて逃走した。
 だがこれをきっかけに「俺」は、とある組織の用心棒、それも凶悪極まりない奴に追われることになったのである。果たして「俺」とのりこの運命は……。
 犯罪者を主人公にした、ハードボイルドなピカレスク・ロマン。まるでスピーディな犯罪映画のようです(さまざまな映画の引用があるので、映像作品の影響は明らかでしょう)。
 非常に勢いがあり、さくさくと読めます。気取ったセリフや比喩もぎりぎり鼻につかない……のですが、時々、言わんとするところとそぐわない場合があります。文章力はあるのですが、表現力が不足しており、空回りしている面があるようです。誤字脱字もあちこちにありました。
 はっきり言ってもう少し修行が必要ですが、今の勢いを殺さずに小説技術を身につけたら、かなり面白い作品を書けるはずです。「次回作」ではまだかもしれません。ですが今後も本をたくさん読み続け、書き続ければ、きっと小説家になれると思います。期待しています。
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