第17回『このミス』大賞 次回作に期待 川出正樹

『菩提の覚路はまだ遠く』的野三佳
『RPGの奇跡』阪本周平
『インタプリタ』光村尚貴
 
 ここ数年、私がかかわったいくつかの賞で明らかに応募原稿の質が低下しています。残念ながら『このミステリーがすごい!』大賞に関しても例外ではありません。具体的には、今年の応募作の大半が、これまでに何度も読んだことがあるパターンの新鮮味の感じられない作品でした。新人賞の応募原稿に求められるのは、今現在はやっている作品ではありません。既存作家のヒット作を彷彿させるような作品では、まず一次は通らないと思ってください。最初に、一次選考で読んだ応募作の中で特に目立った問題について触れておきます。

1.応募規定に準拠しているか
 『このミス』大賞はミステリーの賞です。募集要項に、応募対象は「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」と記されているのは伊達ではありません。謎もサスペンスもない、あってもちょこっと付け足した程度の恋愛小説やお仕事小説、時代小説を送ってくるのは無駄なので、他のノン・ジャンルの賞に応募することをお薦めします。
 また、露骨な枚数稼ぎも即アウトです。一文毎に一行開けたり、無闇に章立てして頻繁に改ページすることで何とか規定枚数の下限に達しているように見せかけているものの、実際には大幅に未達の作品が何作もありました。まずは長篇を書き上げる体力をつけてから応募してきて下さい。

2.安易な使い回しをしていないか
 ある新人賞に落ちた作品を他の賞に再応募することは、はっきり言ってお薦めしません。たとえ改稿したものであったとしてもです。予選委員は、自分の好みを優先して当落を決めるわけではありません。落ちるには落ちるだけの理由があります。それだけの労力をかけるのであれば、全くの新作で勝負してください。
 ちなみに今回、他の新人賞の二次通過作を数点読みましたがタイトルを変えているだけで肝心の作品そのものの瑕疵は、まったく改善されていませんでした。

さて、次に、一次通過には至りませんでしたが光るところがあった作品についてコメントします。

 的野三佳『菩提の覚路はまだ遠く』は、正義感あふれる青年が仲間の力を借りて連続青少年惨殺事件の謎に挑むアクション・シーン満載のスリラーです。主人公が寺院の副住職で空手の達人という設定を活かしたテンポ良く熱気にあふれたストーリー展開で最後まで読ませてくれました。ただし、事件の構図やミステリとしての仕掛けはこれまでにも何度も書かれてきたものであり新味を感じられません。主人公を助ける仲間たちが類型の域を出ていない点もマイナスです。長篇を書く文章力はある方なので捲土重来を期待します。

 阪本周平『RPGの奇跡』は、爆発的にヒットしているスマホ利用のRPGホラー・ゲームに関わる不審死が立て続けに発生し、嫌疑をかけられたゲームの産みの親が真相解明のために仲間と共に奔走するサスペンスです。根幹となるゲームとAIの相互作用によるある種のディストピアの出現というアイディアは面白い。ただし、核となるゲームの中身に関しては、掘り下げが不足しています。もっと精緻に描いて小説に厚みを持たせて欲しかったです。また、警察官や社会組織に対する描写が浅薄なのと、ストーリーを進めるためのご都合主義が目立つのもマイナスです。物語を語る力を持った方だと思うので、再度の応募を期待します。

 光村尚貴『インタプリタ』は、AIの不具合が引き起こした不自然な交通事故の真相を、損害賠償鑑定人の主人公とアシスタントである女性アンドロイドが探る近未来SFミステリです。最近AIをテーマとした応募作が増えていますが、この作品はAIをデエス・エキス・マキナとして安易に用いたり、よくあるデイストピアものとしたりせずに正面からがっぷりと取り組んでいる点に好感を持ちました。その反面、ほぼ全編が主人公二人を主とする登場人物同士の会話で構成されており地の文がないため小説としては痩せている感は否めません。小説の書き方について理解した上で、再度挑戦されることを期待します。
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