第17回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋

『TROOP UNGRACEFUL』龜野仁
『ダム底の花嫁』タムラフミト
『初めての殺人』一之瀬理沙
『惑星エアリス』清水潤一
『モリアーティは表、ワトスンは裏』道塚瞬
 
今回も悩み、迷いました。以下の作品を通過作の次点として次回に期待したいと思います。
「TROOP UNGRACEFUL」
 冒頭からしばらくの緊密な文章が続きます。すでに事件が起きているというわけではなく、これから何かが行われるであろうという期待感だけを読者に味わわせてぐいぐいと持っていく。今ここで登場人物たちが行っていることを書くだけで十分に味わいのある文章となる。初めの数十ページを読んだ時点では間違いなく最終候補作レベルと思っていました。この密度が中盤を過ぎると落ち始める。アクションとツイストに意識が向いてしまったのか、さくさく進むことは進むのですが、登場人物が急に平板になります。終盤に明かされる主人公の血縁者にまつわる事実であるとか、書きようによっては読者に落涙させることができる美味しい箇所もするすると流されていく。非常にもったいないと感じました。テンポよく話を進めるのはいいことですが、書き急いで尻切れトンボになってしまっては本末転倒ではないでしょうか。
「ダム底の花嫁」
 こちらも中盤までは一次通過するかな、と期待しながら読んだ作品でした。いわゆる記憶の中の殺人ものです。過去の事件にもかかわらず関係者の証言がすぐに得られるといったご都合主義的展開には疑問を感じましたが、主人公たちに共感しやすい点は長所です。読み進めていったのですが、最後のページでがっかり。そこで明かされた事実こそミステリーにとってはもっとも美味しい素材なのに、さらっと書いて幕引きしてしまっている。それを書かないでどうしますか。本当にもったいない。
「初めての殺人」
「ターミナル・ポイント」と同じで素材の独創性には感心させられました。しかしアイデアは良かったものの、それを小説として書くための地力が伴っていなかった。視点の定め方に問題があります。物語の大部分が主人公二人がアップで会話している場面で進んでいき、事件は彼らの背景に小さく映っているだけです。何が起きても二人は安心。事件は窓の外で起きているからです。この書き方ではスリルもサスペンスも醸し出すことは無理。どこにカメラを据えて、登場人物たちはどんな位置に立てばいいか、再考すべきです。
「惑星エアリス」「モリアーティは表、ワトスンは裏」
 この二作には共通点があります。ミステリーとしてはアンフェアだということです。落ちのため作品全体に大仕掛けをしていますが、それを読者に知らせるための手がかりが不足しています。単にびっくりさせるだけなら、後ろから突然大声を出せばいいでしょう。ミステリーの場合は、怪しい人影はずっと前方にいたはずなのになぜか後ろから突然声をかけられて、あ、前にいたように見えたのは〇〇だったのか、と仕掛けに納得する、というところまでで1セットです。手がかりはあからさますぎるくらいでちょうどいいのです。
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