第17回『このミス』大賞1次通過作品 青色の記憶

盗まれたフェルメールの幻の作品「青色の炎」
美術研究者の失踪や画商の殺人を核に、
曲芸のようなツイストが炸裂する!

『青色の記憶』小林正和

 史実と虚構をシャッフルして境界がわからないように混ぜ合わせた企みを買う。
 美術ミステリーである。題材となるのは17世紀オランダの画家フェルメールだ。この作家に幻の作品があるという。青い炎に包まれて姿を消し、長い時を経て再び現れるという伝説のある「青色の炎」だ。作中時間の8年前、国内の美術館からこの作品は盗まれ、以降行方不明になっていた。主人公の氷室啓太の父親は美術研究者であり、「青色の炎」盗難後から現在に至るまで失踪状態にある。物語は二つの刑事事件を核として進んでいく。一つは8年前の「青色の炎」盗難、もう一つは大木という画商の殺人である。後者の犯行現場からは「青色の炎」の複製が盗まれたと考えられる。捜査に当たる刑事たちと、父親失踪の鍵はこの絵画にあると考える主人公と家庭教師のコンビ、その両者の視線から事件の顛末が語られていく。
 主人公は高校生なので、学内カーストやいじめなど、身辺の問題についての叙述が事件の話題と同等の比重で行われる。これがどう結びつくか、というのも読者にとっては関心事の一つだろう。作者は一つでも多くのサプライズを提供したいらしく、いくつか曲芸のようなツイストが仕掛けられている。中にはちょっと場外に落ちかけているものもあるが、総体としては成功していると言えるだろう。そのサービス精神は評価したい。
 肝腎の美術ミステリーの要素だが、史実の隙間を衝くだけではなく、「青色の炎」という作品の分析にまで踏み込んでいるところを買った。絵がまざまざと目の前に浮かんでくるようなのだ。世の中に存在しない絵画のはずなのに、その絵を間近で鑑賞したかのような感覚が読後には残った。小手先で書かれた作品ならこうはならないだろう。題材への尊崇の念を感じる。
 最後にお断りしておく。本作は「このミステリーがすごい!」大賞の第九回に応募され一次選考を通過した「青の錬金術」の改稿作品である。編集部に許可をもらって「青の錬金術」と本稿を比較した結果、一部ではなく大幅改稿であり、特に中盤から終盤にかけての展開はまったく異なっていること、過去の選評で指摘された偶然の多用などの弱点については作者も理解し、要素を入れ替えてほぼ克服していること、の二点を確認した。本賞には同程度の改稿作を再び候補作として認めた前歴もある。私は本来、落選作品の再応募を否定する立場ではあるが、ここまでの情熱を込めた改稿版を、そしてこれだけの水準に達した作品を門前払いするのは杓子定規に過ぎる。今回は一次通過とさせていただきたい。作者はすでに次作執筆にとりかかっているものと信じて、期待している。

(杉江松恋)

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