第17回『このミス』大賞1次通過作品 天使の鎖

人間と同じ姿形をした人外が主人公
親しみを覚える吸血鬼もの

『天使の鎖』滝沢一哉

 登場人物と読者の視線の高さを同じにすることで成功した作品だ。
 主人公の〈私〉は人間と同じ姿形をしているが人間ではない生命体である。人間と同じようなロジックで喋るが(ここが設定としてはちょっと弱い)、異性をメスと呼ぶように、違うところも多い。普通の人間とは比べものにならないぐらい長い年月を生きているが、それは時間の多くを眠って過ごし、わずかに起きている期間で寿命を延ばすための活動をする、というやり方でこれまでやってきたからだ。そのやり方とは、間もなく死ぬ人間の血を喰うこと。そのために彼には、寿命が迫っている人間の姿が薄くぼやけて見える能力が備わっているのである。ただし、彼が自ら手を下して人間を殺したことはない。
 いわゆる吸血鬼ものの亜種ということになるのだろう。血は飲むけど、相手に危害を加えるわけではない吸血鬼。長い年月を同じサイクルで生きてきた彼が、違和にぶつかる。自身の種に関して未知の情報を与えられ、それがどういう意味を持つのかを確認しようとして行動を起こそうとするので事件が起きる。その連鎖によって物語が動いていくわけである。不死の存在であるのに人間以上の能力はなくて、途中から自分よりもはるかに強くて脅威となる天敵が登場するなど、設定はよく考えられている。途中で人間と思わぬかかわりができてしまっため、本来はすべきではない行動をとってしまう、といった展開もいい。冒頭に書いたとおり、主人公に超越者のような視点がないため、人間ではない存在に読者もちゃんと感情移入することができるのである。読み終えたときには、この種族に対して親しみのようなものさえ感じているはずだ。
 細かい点に疑問は感じるが、瑕疵というほどのものではない。どこにもない話をおもしろく書きたい、という姿勢を作者には感じるし、それができる書き手だとも思うのである。

(杉江松恋)

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