第17回『このミス』大賞1次通過作品 ターミナル・ポイント

ワシントン条約をネタの中心に据えた
「独創的なアイデア」のスリラー

『ターミナル・ポイント』越尾圭

 今回読んだ中で唯一、あ、こんな題材がまだ残っていたのか、と感心した作品だ。
 新人賞に応募してくる作品にはだいたい「独創的なアイデア」が採用されている。でも、それを「独創的」と信じているのは作者だけで、ほとんどのものは先例があったり、同時期に何人も応募してきたり、と既視感のある題材である。これは初めて見た、というものでも使い方が駄目で、読んでいるうちにこのネタもういい、とうんざりしたりする。
 それがまったくない作品だったのだ。中心となるのはワシントン条約で禁止されている動物の密輸である。それだけならどこかで題材にされた可能性はある。小説じゃなくて、映画とかドラマとかにならあるかも。しかし作者は思いつきだけでこの小説を書いているわけではなかったようで、題材の転がし方に工夫がある。ワシントン条約ネタの作品は他にあったとしても、このプロットで書かれたものは絶対にない、と断言できる内容なのだ。読み進めるうちに、これ、いったいどういう風に落ちをつけるんだろう、と興味がどんどん湧いてくる。これは「独創的なアイデア」の小説と呼んで差し支えないのではないか。
 主人公・遠野太一は獣医である。彼の幼なじみでペットショップを経営する小塚恭平がラッセルクサリヘビに噛まれて死ぬ(出た、ワシントン条約)。事件の真相を太一は、恭平の妹で今は東京税関で働いている利香と共に解き明かそうとする。話の流れを説明するとそんな感じである。キャラクターの個性であるとか、人間ドラマの部分はそれほど魅力的ではない。この小説に欠点があるとすればその部分だ。しかし話運びが着実で、スリルを掻き立てるような書きぶりが巧いので、どんどん読まされてしまう。冒頭数ページを読めばわかるが、場面場面を印象的におもしろく書くという能力が秀でた作者なのである。スリラーの書き手としてはとても大事なことだ。ぜひ第一線で活躍していただきたい。

(杉江松恋)

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