第17回『このミス』大賞1次通過作品 砂塵のサアル 血の復讐

イスラム原理主義者に攫われた邦人女性
救出任務を請け負うのは民間軍事会社経営の傭兵
活劇に必要なものがすべて備わった小説

『砂塵のサアル 血の復讐』澤隆実

 邦人女性がイスラム原理主義者のテロ組織に誘拐され、彼らの性奴隷にされている。その救出任務を請け負ったのは民間軍事会社経営、つまり傭兵を職業とする人物で、彼にはパレスチナ難民キャンプで育ったという過去があり、同い年のアラブ人の裏切りに遭って家族をモサドに殺されたという因縁があった。中東で傭兵活動を続けているのも、いつかその相手を探し当てて復讐を遂げるためである。
 本篇はこんな物語である。原理主義者の拠点で、男たちに陵辱されるのを待つ絶望の時間を過ごしているヒロインの視点から話は始まる。掴みはばっちりだが、基本設定はお世辞にも独創的とは言えない。昨今の国際情勢からすれば、いかにも応募がきそうな感じである。しかし、これが読ませるのだ。主人公・海部賢三の動きを追う形で前半は進んでいく。アクション小説の常道を踏まえて初めから動きは多く、場面の切り換えもテンポよくきびきびと進んでいく。海部のキャラクターはその動きの中で自然に見えてくる。やがて救出依頼を受けた中野ユミと出逢うことになるが、彼女も確固とした考えを持った人間として描かれているのがいい。こうした救出劇で、しかもひどい体験をしている。単なる悲劇のヒロインとして書かれたのでは物語はそこで停滞してしまう。
 主人公二人が合流を果たしたところで切り替わり、後半の展開になる。前半からの流れを引き継いで、さらに大きな物語が重ね合わされる。クライマックスで環が閉じるよう、計算して書かれているのだ。大きな満足を感じて読者はページを閉じることになるだろう。
 活劇に必要なものはすべて備わった小説だ。話の流れ、読者の感情を操るのに必要な事件、そこで豊かな表情を見せることができる登場人物。技巧面だけならばすでに完成していると言っていい作者だ。書き続けていけば他にない個性も匂ってくるようになるだろう。

(杉江松恋)

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