第17回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太

『太平洋は、丑三つ過ぎ』宮本あおば
『ポリティカル・コレクトネス』朝海陽
 
 一部の剛速球を例外として、多くの娯楽小説は組み合わせで出来ている。オーソドックスな骨格に目を惹く素材──ユニークな舞台、特殊なパーソナリティ、専門知識などの彩りを添えることで、作品はそれぞれの色を獲得する。競争率の高い新人賞において、後者のスキルが強みになることは明らかだ。骨格の重要性を否定するものではないが、今年度の「次回作に期待」には”固有の色”を感じさせる二作を挙げておく。
 宮本あおば『太平洋は、丑三つ過ぎ』は十八世紀末の物語。八丈島を目指す遠島船が遭難し、船手同心の高虫右近茂誼(右近)と囚人の文治は英国商船”レボリューション”に救助された。二つの部族が住むスペイン領の村に到着した右近は、スペイン人宣教師アントニオの変わり果てた姿──背中に枝を刺されて木に吊され、全身にタールを浴びた死体を発見する。その妹ヴァレンティーナは右近に犯人探しを命じ、三日以内に解決しなければ軍隊を呼ぶと主張するのだった。
 解決はやや人を食ったものだが、浮き世離れしたシチュエーションとの相性は良い。細かい時代考証に拘るのも野暮だろう。惜しむらくは(意図的にせよ)キャラクターと台詞の軽さが滑り気味で、読者を選ぶ感が強いことだ。自由な着想を活かしつつ、抑えた筆致を試みるのも手かもしれない。
 一つの業界を描くという観点からは、朝海陽『ポリティカル・コレクトネス』も興味深い作品だった。新自由党の県議団が揺れている──そんな噂を聞いた東日新聞記者・桜井春は、懇意の県議団長・飯田邦太郎に取材し、若手県議の代表格・谷口孝治の「会派を割る」という脅しの存在を知る。知事と県議会が対立する県において、真自由党の分裂は一大事だ。県政キャップの指示を受けた桜井と後輩の榎本麗子は、谷口と第三勢力”改革の会”の裏交渉を突き止めるが、地元紙「山井日報」の特ダネ記事で谷口の計画は頓挫してしまう。
 若き新聞記者が地方議会の裏を探り、政界とマスコミの陰謀に翻弄されながらも、政治家の正しさについて考える──という基本設定は、リアリティと騙し合いの面白さを両立させる手堅いものだ。とはいえ(周知の事実として)権謀術数の渦巻く世界だけに、政治的な利益誘導だけでは物足りない。他の要素に絡める工夫を凝らすことで、意外性やオリジナリティを伴う演出も可能だろう。
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