第17回『このミス』大賞1次通過作品 Cide Story

ネット監視官がアンドロイドの殺人を追う
感情と穢れをめぐるSFミステリー

『Cide Story』伊達慧

 二〇三八年の夏。父を失った七歳の「ぼく」こと水城陽(ハル)は、介護用アンドロイド・ロイの悲しげな表情を理解できなかった。そして二〇五五年。清く正しい世界を実現するため、ハルは監視官として”穢れたコンテンツ”の浄化に勤めていた。拡散者を突き止めてデータを封じ、時には通報することが彼の任務である。
 人間そっくりの高性能アンドロイドが普及したことで、社会には多くの緊張が生じていた。旧友のアンドロイド研究者・本宮颯太が刺殺され、監視カメラの映像を見たハルはアンドロイドの犯行だと直観する。警察や関係者に「(アンドロイドは)人を傷つけたことすらない」と否定されたハルは、調査を通じて本宮の秘密に辿り着くが……。
 アンドロイドの反乱を描くSFサスペンス──と書くと凡庸に映るが、同級生のレイプ被害動画を見た過去を持つ監視官を主役として、必要悪としての”穢れ”を扱ったアイデアとスキルは注目に値する。過度の浄化が欠落を生むという視点は、明らかにディストピア譚の系譜に連なるものだ。リアルな近未来を背景に敷き、共感を抱かせる狙いも(少なくとも本賞では)正解だろう。
 派手なアクションやパニックのインパクト、ロボット三原則や犯人探しのロジックなどを期待すると肩すかしを食うが、本作の肝はそこにはない。モチーフの一貫性、主人公の価値観を揺るがすプロット、場面の巧みな切り替え、安定した語り口などを備えた良質のエンタテインメントである。

(福井健太)

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