第17回『このミス』大賞1次通過作品 その男、女衒

妻を失った”女衒”の復讐劇と
偽装結婚から始まるメロドラマの二重奏

『その男、女衒』浪華壱

 八戸で缶詰工場を営む中年男・佐藤幸造は、女衒と称する男の提案を受け、中国人女性・李雪欄と偽装結婚した。籍を入れるだけで金が貰えるなら「一度くらい冒険するのもいいかもしれない」と思ったのだ。ホステスの母親に捨てられて施設で育ち、歌舞伎町の顔役になった女衒は、妻を自殺させた男達への復讐を続けていた。李は中国にいる夫の治療費を稼ぐため、女衒に斡旋されたマッサージ店で働いていた。
 一年後。末期肝臓癌を宣告された佐藤は上京し、身元を伏せて李に逢い、本物の夫に嫉妬する。いっぽう”最後の復讐相手”に辿り着いた女衒は、黒幕の正体と己の過去に直面していた。
 壮絶な過去を持つ新宿の斡旋屋、見知らぬ相手と擬装結婚した中年男、夫のために出稼ぎをする中国人女性──三人の境遇や想いを交互に示すことで、復讐譚とメロドラマが並走していく。ストーリーに新味はないものの、巡り合わせで繋がった人々を巧みに配し、それぞれの軌跡を辿る筆致には安定感がある。物語を分裂させることなく、二つのプロットで読者にアピールする佳作と言えそうだ。
 歌舞伎町の人買いを取り巻く裏社会、出稼ぎアジア人の境遇などを掘り下げれば、より厚みのある傑作になり得た──という印象は否めないが、新人賞の投稿作にそれを求めるのは酷だろう。綿密な取材はプロ作家のほうがやりやすい。そんな伸び代を含めたうえで、著者の技量を評価したい。

(福井健太)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み