第16回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦

『K・セイジン殺害事件』桜井皐月

 
 「このミステリーがすごい」大賞に応募するにあたっては、要項をよく読んでください。職業や略歴をきちんと書いていない方が、しばしば見られます。
 枚数制限がありますから、多すぎたり、少なかったりしてはいけません。以前は余程でなければ大目に見られていましたが、今は一次選考に入る前に厳しくはねられます。読んでもらえないのです。ですから、くれぐれも注意してください。
 枚数をかせぐために、だらだらと書いても駄目です。選考を勝ち抜くには、読者に読ませる「牽引力」が必要です。だらだらと説明していたら、読者は読むのをやめます。「最後まで読んでくれれば、傑作だと判ってもらえるはず……」と思っても、読んでくれません。それどころか、店頭で手にとってぱらぱらっとめくって棚に戻してしまうでしょう。買ってもらえないのです。
 「読ませる小説」には、適切な密度と、牽引力が必要となるのです。自分が面白いと思う作家の小説を、一度そういう目で読んでみてください。そして、それを身につけてください。

 さて、今回の「次回作に期待」作品は、『K・セイジン殺害事件』(桜井皐月)です。先に申し上げておくと、「すぐ次に期待」というよりも「今後に期待」です。
 探偵のもとへ、F・イークという女性から殺人事件の調査依頼がもたらされる。彼女の父親、世界的なSF作家K・セイジンが密室で殺害されたというのだ。
 探偵が現場へ赴くと、そこに転がっていた死体は巨大なタコの姿をしていた。K・セイジンは、実はタコ型宇宙人だったのである。
 彼の探偵事務所に、今度は宇宙連邦捜査官F・K・ディックジャナイなる人物が訪れる。捜査官が、K・セイジンは宇宙連邦の指導者スクイッド(イカ型宇宙人)と並ぶ「宇宙の創造者」であるが、後に反目したスクイッドを殺そうとしたために追われているのだ、と語る。
 探偵は謎を追って、捜査官ディックジャナイとともに、スクイッドが統治する星「オクト・パス」へ向かう……。
 独特のセンスで書かれており、たいへん楽しく読みました。イカやらタコやら出てくるところなど、北野勇作的な世界でもありました。文章は、割と達者です。ですが、単語の意味を取り違えている場合や、送り仮名が間違っている場合、単純な誤字脱字が全体にありました。もう少しそういったミスを減らしましょう。普段からまめに辞書を引くようにするといいかもしれません。
 世界観については、もっとはっきりして欲しかったです。時代はいつなのか、地球はどういう状態なのか(我々と時間線が違うのか)。科学的なところはほぼ無視されており、SFというよりも宇宙ファンタジイでした。それはそれで構いませんが、何か特別な「設定」が欲しかったです。
 ネーミングもやや安易。それも味のひとつと言えばひとつですが、もうひとひねり欲しいところです。
 ――こんなに申し上げつつもここ「次回作に期待」に取り上げたのは、独自の「いい味」を感じたからです。研鑽を続ければ、いずれ高く評価される小説を書けるようになる可能性があると、信じています。是非、今後もどんどん書き続けてください。楽しみにしています。
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