第16回『このミス』大賞 次回作に期待 川出正樹

『少年少女は嘘をつく LGBT まこっちゃん先生の青春事件簿』雪林白景
『永遠の夏休み』鳴瀬光彦
『落語家、首切り朝右衛門』松野未可子

 

 今年はミステリ系の新人賞に受賞作が出ないケースが多く、私がかかわったいくつかの賞でも明らかに応募原稿の質が低下しています。『このミステリーがすごい!』大賞に関しても作残念ながら同様に低調でした。最初に、一次選考で読んだ応募作に対する総評を書いておきます。

1.謎とサスペンスに関して
 『このミス』大賞はミステリーの賞です。募集要項に、応募対象は「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」と記されているのは伊達ではありません。核となる謎やストーリーを牽引するサスペンスがまったくない作品は言うまでもなく、ちょっと付け足してミステリの体裁を整えましたという程度の恋愛小説・お仕事小説・時代小説を送ってくるのは無駄というものです。他のノン・ジャンルの賞に応募することをお薦めします。

2.特殊設定に関して
 「霊界と交流ができる」「死者がよみがえる」「他人の嘘を見抜ける」「動物がしゃべる」「犯罪の痕跡をたどれる」「聖/邪なる家系の裔」「神や偉人の生まれ変わり」等々。どれもこれも手垢が付きすぎた設定です。しかもたいていの場合、「なぜそれが可能なのか? どうしてそういう現象が起きるのか?」といった、作品世界を成り立たせる上で最も大切な事項に関して十分な説明がなされていません。そういうものだから、で済ませるのは手抜きというものです。

3.安易な使い回しに関して
 たとえ改稿したものであっても、ある新人賞に落ちた作品を他の賞に再応募することは、はっきり言ってお薦めしません。予選委員は、自分の好みを優先して当落を決めるわけではないのです。落ちるには落ちるだけの理由があります。それだけの労力をかけるのであれば、全くの新作で勝負してください。
 ちなみに今回、過去に私が次回作に期待としてあげた作品を、また読むことになりました。残念ながら変わっていたのはタイトルのみで、肝心の作品そのものの瑕疵はまったく改善されていませんでした。

 さて、次に、一次通過には至りませんでしたが光るところがあった作品についてコメントします。
 雪林白景『少年少女は嘘をつく LGBT まこっちゃん先生の青春事件簿』は、バスケットボールの強豪高校を舞台に、女子バスケ部と声優部の二つの顧問を務める新任教師が、才能を見込んだ新入部員の育成に尽力するかたわら、声優部で起きた暴行事件の真相解明に奔走する青春ミステリです。臨場感のあるバスケットボールのシーンは、面白くスポーツ小説としてまずまずの出來だと思いました。その反面、ミステリとしては詰めが甘く事実を隠蔽する動機に説得力がありません。なによりも一番大きなネタの隠し方がアンフェアな上に、そもそもこの事実が判明しても驚くのは読者だけで作品世界の登場人物にとっては何一つとして不思議なことが起きていない点は、大きなマイナスです。これは為にする不必要な叙述トリックの典型です。文章力はある方なので捲土重来を期待します。

鳴瀬光彦『永遠の夏休み』は、捏造事件に巻き込まれて懲戒免職となった新聞記者が、故郷の街で、埋蔵金伝説がある古びた洋館絡みの事件に巻き込まれる陰謀ものです。キャラクタを作る力、プロットを小説とする力は一次を通過する水準に達しています。大きな問題は二点、要となる戦前に活躍した女優の造詣が実在の人物に寄りかかりすぎていること、第二次世界大戦中の非人道的な秘話を敢えて今の時代にネタにするには、掘り下げが浅薄で過去の類書に比べて取り立てて見るべき点がないこと、です。小説を書く基礎力はあると思いますので再度の応募を期待します。

 松野未可子『落語家、首切り朝右衛門』は、江戸時代に罪人の首を斬る任についていた山田朝右衛門吉利と落語家・三遊亭円朝のコンビが心中偽装事件の黒幕を曝く時代ミステリです。キャラクタを作り、小説として書く力はありますが、見逃せない瑕疵が多く一次通過には至りませんでした。なにより問題なのは、新作落語「死神」の創作者を、なんの説明もなく円朝ではなく架空の人物である彼の兄弟弟子に変更している点です。心中偽装事件の生き残りで無実にもかかわらず死罪となった兄弟弟子の霊が朝右衛門に取り憑いたため真相解明をせざるを得なくなる、という設定の為に敢えて定説を無視したようですが、他にいくらでもやりようはあります。実在の人物を主役にする事に対する覚悟が不足していると感じました。ミステリとしても、犯人特定の論理展開に隙が多すぎて、まるで最初から探偵役が犯人を知っていたかのようなご都合主義的な展開はいただけません。もっとミステリの基本を勉強してから、再度応募してみて下さい。
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