第16回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹

『機龍の意匠』南原詠
『一年草の心魂』新井春葉
『牛の鳴く頃に』山手線大海原町

 

 南原詠『機龍の意匠』は、非常に楽しく読んだ作品でした。内容は、知的所有権を題材にしたリーガル・サスペンス。権利だけを保有して、企業などを相手にライセンス料を得ようとする、いわゆるパテント・トロールと対峙することになった人々の物語です。
 知的所有権をめぐる駆け引きなのに、クライマックスでは巨大メカのアクションが繰り広げられるという強烈な展開(嘘ではない)に強い魅力を感じました。
 ただし難点がいくつか。大きな弱点は、説得力です。映画『妖星ゴラス』を思わせる豪快な解決策は確かに魅力なのですが、パテント・トロールがこのロジックにおとなしく引き下がるのか? という疑問を抱きました。
 冒頭の、メカゴジラ像が建設される経緯も同様。シン・ゴジラ像の建設が頓挫したという実際のできごとにも言及しているのに、メカゴジラ像については「なぜか通ってしまった」以上の説明がないのは、物語の説得力を弱めてしまいます。
 付け加えるなら、東宝の創作物であるところのメカゴジラに多くを負ってしまっているところも難点です。

 新井春葉『一年草の心魂』は、数学に魅せられた男女の物語。数学を男女の恋愛とうまく結びつけた構成が魅力の作品です。
 ただ、読み終えてみると、殺人者の存在がかなり蛇足なように思えました。ヒロインを死に至らしめるための手段として存在しているからでしょうか、その動機も説得力が希薄でした。
 彼女の思惑がさほど意外なものでもなかったので、ミステリの要素を捨てて、恋愛小説として仕上げても良かったのかもしれません(そうなると、さすがにこの賞の守備範囲外ですが)。あるいは、もっと特異な動機を持たせるか、主役二人以外の人物をより充実させて、エピソードを膨らませるか。

 山手線大海原町『牛の鳴く頃に』は、中学生の間で起きる陰惨ないじめとその末路の物語。一気に読ませる文章が印象に残る作品でした。
 ただ、作中の刺激的な要素を陰惨なできごとに頼っていて、ミステリとしてのひねりが最後の牛に関するエピソードに頼っているところは惜しいと感じました。この部分だけがミステリ要素というパーツとして配置されているような印象で、物語の他の部分とより密接に関わり合っていれば、より強烈な作品に仕上がったのでは。

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