第16回『このミス』大賞1次通過作品 渋川紀秀

連続する爆破事件。
犯人の密かな要求は、過去の事件の再捜査。
過去と現在、そして女性刑事の秘密が絡み合う……。

『プシュケーの剃刀』渋川紀秀

 水無瀬千里が、公安機動捜査隊の化学班に異動して二ヶ月。都内で爆破事件が連続し、複数の死傷者が出た。爆発物の分析結果から、42年前に連続爆破事件を起こした極左団体との関連が疑われるが、決定的な証拠は見つからない。捜査が難航する中、千里のもとに電話がかかってくる。爆破犯人と思しき相手は、10年前に起きたある左翼セクトの内ゲバ事件について、千里一人で再検証することを要求した。従わなければ爆弾の犠牲者が増え、さらに千里の致命的な過去を暴露する、と脅すのだった……。
 ……と、このあたりはまだまだ序盤。連続爆破事件の捜査と並行して、千里による過去の事件の掘り起こしが描かれる。ある事件の過去を探るうちに、さらに別の事件の過去が浮上して、過去への旅路は徐々に入り組んだものになっていく。
 そしてこの作品は、単に現代の事件と過去の事件を並行して捜査するだけの物語ではない。主人公の千里にも大きな謎が隠されている。
 なぜ千里のもとに謎の電話がかかってきたのか? 電話の主は、千里のどんな秘密を握っているのか?
 序盤からほのめかされている、彼女自身の隠された過去もまた、物語の中で重要な位置を占めている。千里を真相解明に駆り立てるのは、単なる職業意識や脅しによるものだけではない。その動機は、彼女自身の中にもあったのだ。
 現在と過去にまたがる複数の事件。千里自身の秘密。いくつもの探索のストーリーが並走する入り組んだ構成の物語だが、ほとんど煩雑さを感じることなく読ませる。クライマックスに向けて、いくつもの流れを一本に収束させてみせる。
 錯綜する展開に、人々を極端な行動に駆り立てるほどの思いを描き、しかもスムーズに読ませる小説に仕上げている。

(古山裕樹)

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