第16回『このミス』大賞1次通過作品 七條幸

女でありながら男、天使でありながら悪魔。
少年が出会った美少女の思惑とは……?

『カーリーマー』七條幸

 タイトルはヒンドゥー教の破壊と殺戮の女神の名前から。
 物語は、一人の少年が自ら死を選ぶ場面から幕を開け、彼の回想へと続く。
 いじめを受けている中学生の少年、西本哲也。夏休み、彼は父に連れられてある教会を訪れた。そこで出会ったのが、同い年の美少女、河野椿だった。彼女は初対面の哲也に向かって、「君の隣に『死』が見えた」と告げる。彼は動揺しながらも、彼女の奇妙な個性に恋心を抱き、何度も教会を訪れるようになる。そして新学期。椿は同じ中学校に転校してきた。その姿に哲也は驚く。椿は自分が性同一性障害であると公言して、男子の制服姿で現れたのだ……。
 物語は、椿と関わりを持った人々の視点から語られる。いじめられている中学生、同じ学校の教師、他の生徒。それぞれの視点から、椿の危険な魅力が描き出される。子供っぽいところがありながら、時に妙に大人びて見える。少女であり少年でもある。時には天使のようであり、また時には悪魔のように振る舞う。河野椿という特異なキャラクターが中心にある。
 冒頭の場面からもうかがえるように、これは破滅を描いた物語である。そうした破滅に、椿はどのように関わっているのか? 椿はなぜそんなふうに振る舞うのか? いったい椿の目的は何なのか、そもそも目的があるのだろうか……?
 中心にいるのは河野椿。その思惑をめぐる謎が、物語を牽引する。破滅へと突き進む展開に危険な魅力を持たせているのが、いくつもの顔を持つ椿のキャラクターであり、それを巧みに描き出してみせた作者の手腕だ。
 語りの順序と視点の切り替えも巧妙。先にどんなできごとが待ち受けているのか、あらかじめ手の内を見せながらも、先へ先へと読ませる力を備えている。
 手堅く構築された、不穏な魅力に満ちた小説だ。

(古山裕樹)

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