第16回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史

『うねりのなかで四つ葉は輝く』田中徹一
『銀盤の約束』ひじり
『鉄砲玉、万世橋に転がる』七十音全章
『同居人』白戸那由他

 

 今回の一次予選は、いささか微妙だった。そこそこ魅力的な作品は、例年より多かった。その一方で、手放しで惚れ込める作品には出会えていない。それ故に、当落線上に多くの作品が並ぶことになったのだ。
 というわけで、一歩及ばなかった作品群を紹介しておこう。
 フィギュアスケートを舞台とした本格ミステリの『銀盤の約束』。作品の中核となるスケート描写と、終盤のドンデン返しに好感が持てた。人物造形も、新鮮味はないものの堅実でよい。他の作品との比較で一次予選を通過できなかったのだが、差はなにかというと、加点要素がどれだけあるか、だ。減点法で評価すれば、本作が通過した可能性はあるが、加点要素がスケートを題材としてうまく扱っていたことだけだったのが残念。また、そのスケートにしても描き込みが物足りず、勝ちきれなかった。
『うねりのなかで四つ葉は輝く』は、1945年にGHQの調査員が、日本の教育事情について聞き取り調査を行うという枠組みのなかで、江戸時代から繰り返される連続殺人事件と漢文教育の歴史を繙いていく。謎の提示の手付きが巧みだし、事件の広がり方も意外でよい。その意味でそれなりに加点要素はあったが、全体として物語が平板。枠組みの設定は本書の魅力でもあるのだが、物語に起伏をつける上で、作者にとっては制約にもなってしまったように感じた。二次には推せないが、注目し続けたい才能である。
『鉄砲玉、万世橋に転がる』は、若者たちの破天荒な青春小説。彼等のチンピラ感が素敵だ。つまりはキャラクターの台詞や動き、考え方の魅力である。その魅力を完成品の域に高めるには、さらに文章を磨く必要があるだろう。特に地の文での情景描写や状況の説明などで、言葉の選択やリズムを、より意識的に行うべきだ。まさに次回作に期待したい一作である。
 最後が問題作。『同居人』だ。アイディアはとても良い。この仕掛けには驚いた。狂喜した。それが、第一部の終わる45頁でのこと。それまでに描かれる事件は、正直なところありきたりな展開だし文章が優れているわけでもなく、義務感で読んでいたのだが、いやはやこんなものが待っていようとは。第二部は第一部のコピペに仕掛けの解説を加えるかたちで進むのだが、第一部の描写のなかには解説が不可欠ではないシーンがあるなど、濃淡のムラがある。それが第二部終了の102枚目まで続くのも、困ったものだ(濃淡なく、すべて解説の必然性を伴うかたちで進めて欲しかった)。必然性のある部分については輝いているだけに残念。第三部に入ると、さらに一ひねりした解決が待ち受けていて、第一部最終頁ほどの衝撃はないが、またもや喜ばせて戴いた。総論としては、第二部の濃淡のムラとそれに伴うゆるみに加えて、いくつか不満だった点がある。第一部終了時に明らかになる衝撃の事実に関して、その言葉が示す“それ”の一般常識と、本作中との設定に若干のズレがあるので、そこは第一部終了時、もしくは第二部の序盤できちんと説明しておくべきだろう。また、文章表現には人一倍気を使うべきタイプのミステリであるにもかかわらず、誤字が散見されたのは興醒めを誘う。最も大きな不満は、これだけ素晴らしい仕掛けを用意したのに、事件がつまらないのだ。もっと不可思議なことが演出できたはずだし、登場人物たちのサスペンスもあおれたはず。この仕掛けをこの事件で消費してしまうのは、なんとももったいない。このアイディアの活かし方を、再度本気で考えて戴きたいという“次回作に期待”だ。その際には、探偵役をどうするか(今回同様探偵を配置せずに進めるのがよいかどうか)も、あわせて考えてみて戴ければ、と思う。第一部の事件、第二部の濃淡のムラなどが解決されれば、もういっそのこと前代未聞の隠し玉で出してしまってもよいのではないか、という気もするが、前回の大賞受賞作『がん消滅の罠』の例もあるから、再チャレンジを待ちたい。

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