第16回『このミス』大賞1次通過作品 KAnon

学園を支配する“密告裁判”。罪を密告された者たちに投票し、一位の人物には、死が与えられる。そんな制度が定着してしまう恐怖を、抜群のリーダビリティで描く。

『密告裁判』KAnon

 リーダビリティという観点では、今回一次予選を担当した作品のなかで最も際立っていた。衝撃的な導入部、先の読めない展開、それを牽引する人物造形、それを支える安定した文章。くいくいと読み進むことができるのである。
 あるクリスマスイブのこと。全国屈指の進学校・帝裁学園高校で謎のビラが大量に貼られていた。そのビラは、“密告裁判”を始めることを告げていた。生徒に対し、専用サイトにアクセスして、生徒や教師の悪事を密告せよというのだ。密告された生徒や教師の悪事は管理者によってリスト化されて公開される。生徒は有罪と思うものに投票し、最も多くの票(ただし五〇票以上)を獲得した者が有罪として死刑に処されるというのだ。
 密告裁判が始まった時点では、生徒たちはまだまだそれを悪ふざけだと思っていたし、まともに取り合っていなかった。要するに、自分には直接関わりのないこととの認識で、野次馬気分だったのである。だが、それは悪ふざけなどではなかった。学園を支配するルールとして瞬く間に定着してしまうのだ。無関心、あるいは認識の甘さ、そしてそれに基づく根拠のない楽観――それらが悪夢としか呼びようのない現実を招き寄せるという恐怖が、ここにある。
 そして作者は、この密告裁判という装置を巧みに操る。学園を支配し、そして読者の心をも制御する。だからこそ、ページはめくられ続けるのである。
 そうはいうものの、無茶な設定であることは確かだ。「ありえねぇ」と全面否定されても不思議ではない設定である。一次選考者として本作を読み、幾度もそう感じたのだが、この作者、なかなかどうしてしたたかで、それなりのエクスキューズをしっかり用意しているのだ。満点のエクスキューズではないにせよ、これがあるとないとでは大違いだ。「なるほど、あり得なくもないな」と思わされてしまうのである。
 かくして、うまいことやんわりと押し切られた感触を抱きつつ、二次へ推す。

(村上貴史)

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