第16回『このミス』大賞1次通過作品 高栖匡躬

Jリーグの試合展開の予告と、衆人環視のJリーグ会場での審判殺害というハウダニットのダブルパンチ。サッカービジネスの闇のなかでの不可能犯罪を愉しむ。

『悪魔の笛』高栖匡躬

 サッカーの世界を舞台としたミステリである。主人公を務めるのは、かつては高校サッカーで日本代表候補となるほどの活躍したものの敵選手の反則によって重傷を負い、選手としての道を絶たれた荒井一平だ。彼はその後弁護士となり、さらにボランティアで日本サッカー協会(JFA)公認の審判員も務めていた。そんな彼に、JFAの理事から相談が持ちかけられる。Jリーグの公式試合における審判の不正を告発するメールがJFAに届いたというのだ……。
 というわけで、まずは審判の不正、つまりは八百長の謎である。
 メールは三通届いたという。最初のメールが告発していたのは、国際的にも評価が高い村瀬審判が、ファウルやオフサイド、アディショナルタイムの設定において、一方のチームを有利に導く判定を行ったというものであった。二通目も同種の告発だったが、さらに、主審と線審のポジショニングにも言及していた。JFA理事は告発を受けて試合の映像を確認したが、不正とまでは言い切れないと判断した。だが、三通目のメールは、それらとは次元が異なる告発だった。三日後の試合の展開を予告する内容であり、そして試合はその通りに進んのだ……。
 ゾクゾクする。Jリーグの公式試合といえば、数万人の観客が現場で選手や審判の一挙手一投足を注視している。TVの中継も入り、録画もされている。それだけの視線に監視されたなか、いかにして試合は予告通りにコントロールされたのか。ハウダニットとしての魅力は圧倒的だ。
 そればかりではない。その三試合で副審を務めた審判員が、札幌で行われたJリーグの試合中に急死する事件も起きる。どうやら衆人環視のなかで殺されたらしいのだ。こちらもまた不可能犯罪の匂いがプンプンしていて好感が持てる。
 そうしたハウダニットの魅力を、八百長を含む国際的なサッカービジネスの知識で彩り、長篇ミステリとして完成させたのが、本作だ。犯人の動機や決着の方法に不満は残るし、全体としては、もっと密度濃く圧縮して欲しかったという想いもある。だが、ハウダニットに関してはアッパレだ。謎の設定がもたらす期待値に対し、満点とはいわないが、合格点は獲得していた。
 二次選考委員にはサッカー好きもハウダニット好きもいるが、その面々と本作がどう闘うか。勝負が愉しみである。

(村上貴史)

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