第16回『このミス』大賞1次通過作品 宮ヶ瀬水

前世の記憶を持つ少女と大学生が二つの殺人に挑む
霊が実在する世界の本格ミステリー

『伊藤杏寿、顛末』宮ヶ瀬水

 原因不明のトラウマで”人の話を否定すること”を恐れる大学生・関口藍は、超常現象や心霊現象を鵜呑みにする自分に悩んでいた。ゼミの担当教授に中学一年生の少女・伊藤杏寿を紹介された関口は、そこで「杏寿の生まれ変わりを止める手伝いをして貰えないかな」と頼まれる。杏寿は前世──神山木綿子と都倉水奈の記憶を持っており、二度と転生をしたくないというのだ。
 関口と杏寿は生まれ変わりを自称する女・橋爪衣織が暮らした木寄村へ向かうが、新たな情報は得られなかった。続いて神山木綿子の生家を訪ねた二人は、父親の虐待を受けた木綿子が12歳で殺されたことを知り、ポルターガイスト現象に遭遇する。翌朝、当主・神山昌一の毒殺死体が発見され、現場の私室には「神山木綿子」という赤い署名と羊の置物が残されていた。
 何でも信じる大学生と故人の記憶を持つ少女がコンビを組み、因縁のある家で殺人事件に巻き込まれる。怨霊(の演出)を扱ったミステリーは多いが、本作のキャラクター造型は独創的だ。各人に悩みを持たせ、トラウマの克服と生まれ変わりの阻止という(殺人事件とは別の)課題を用意し、プロットに仕込んだ構成もすこぶる巧い。霊の見える友人が関口を救い、そこで得た情報をもとに関口が杏寿を救い、軛を解かれた杏寿が殺人犯を暴くというように、全てのミッションが鮮やかに繋がるのだ。
 霊の実在という特殊ルールを使いながらも、犯人を絞り込む推理は正統派のロジカルなもので、その手続きはセンスを感じさせる。クライマックスはベタなりに見せ場として機能しており、幕切れの読後感もスマート。二次選考に強く推したい快作だ。

(福井健太)

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