第16回『このミス』大賞1次通過作品 くわがきあゆ

「俺」の命を狙った女は誰なのか
恨まれる男の視点で描くサスペンス

『俺が泣かせた女』くわがきあゆ

 会社員の「俺」こと愛敬一は、過労死した元同僚・大川陽太郎の実家から帰る途中、何者かに崖から突き落とされた。辛うじて命を取り留め、旧友・中道大翔のアパートに転がり込んだ愛敬は「俺を襲ってきたのは、女だ」「犯人は俺が自分で突き止める」と宣言する。大学病院の医師・人見麗に襲撃犯の毛髪を預け、DNA鑑定を頼んだ愛敬は、動機のある女たち──同僚の関みどり、元恋人の藤原桃奈、兄嫁の愛敬柊子、中道の元恋人・葉山芽衣に接触を図り、各々の細胞を集めていく。やがて愛敬は鑑定結果を受け取るが、その人物には確かなアリバイがあった。
 多くの女性に恨まれた男が、自分を殺そうとした相手を探す──という異色のフーダニット・サスペンス。本作の肝は推理ではなく、容疑者が幾度も切り替わるプロットと、調査の過程で浮かぶ「俺」のパーソナリティにある。生まれながらに女性を蔑み、不満や怒りを説く女性たちを(本人的には)論破し、無自覚な正当化を重ねる「俺」のエゴイストぶりは、その一貫性ゆえに奇妙な味を醸している。徐々に違和感を募らせ、本性に気付かせる語りを通じて、独特の読書体験を与えてくれるテキストだ。生理的に合わない読者もいそうだが、基本的にはブラックユーモアの文脈で捉えるべきだろう。
 諸々の女性関係をはじめとして、都合の良さが目立つきらいはあるが、この手の話に”何故こんな奴がもてるのか”と批判しても意味はない。安易な勧善懲悪や悔悛に頼らず、キャラクターの力で押し切った判断を評価したい。著者は2012年に『一か罰か』で第25回小説すばる新人賞の最終候補になっている。

(福井健太)

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