第16回『このミス』大賞1次通過作品 矢吹哲也

連敗記録中の人気競走馬が攫われた
生放送で報じられる怪事件の結末は?

『生放送60時間──キボウノヒカリ誘拐事件』矢吹哲也

 廃止の危機に陥った栃木競馬の救世主──162連敗の記録達成を控えた”史上最弱馬”キボウノヒカリが馬房小屋から姿を消し、情報番組のディレクターである榊原真由は、上司の命令で60時間の報道特番を作ることになった。やがて「要求額は、百円です」「(女性騎手の)舟木奈央子さんが身代金と携帯電話を持って、競馬場のゴール板の所まで来てください」という指示が届き、テレビ局の公式ツイッターに雑多な推理が寄せられ、投稿サイトを使った便乗詐欺が発生する。榊原は栃木競馬の廃止を訴える県議会の一派に注目するが、悪事の証拠は見付からなかった。原と舟木は競馬場に向かうものの、犯人は現れず、テレビ局には特番の中止を求める爆破予告が……。
 生放送の大型テレビ番組という時間枠を用意し、ハルウララを彷彿させる人気競走馬の誘拐騒ぎを辿り、ドタバタ劇と推理の果てに真相が明かされる──本作はそんなユーモアミステリーだ。シャーガー事件(史実)や岡嶋二人『あした天気にしておくれ』など、競走馬が奪われる話は多いが、マスコミやSNSの右往左往ぶりを追うストーリーは珍しい。犯人を含むキャラクターの軽さがサスペンスとは無縁、唐突に暴かれる犯行計画が無茶──などの難点はあるが、ポップな筆致やツッコミ待ち(にしか見えない)エピソードの数々を見るに、全篇がナンセンスなホラ話と見るのが妥当だろう。だからこそ都会ではなく、ローカルの競馬場とテレビ局が選ばれたのだ。
 いささか余談めくが、作中のデータから判断すると、これはハクホークインの161連敗が記録だった頃(1992~2008年)の物語と思われる。現在の記録はマイネアトリーチェの192連敗である。

(福井健太)

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