第16回『このミス』大賞1次通過作品 渋川宙

ロボット研究所で相次ぐ盗難事件
その真相と意外な目的とは?

『HICARU』渋川宙

 ホビーロボットを開発するベンチャー企業の社員・木原将翔は、物理学科の助教授・時任瑛佑を呼び出し、人工知能を研究する友人・梅宮健瑠をプロジェクトに誘うように依頼した。時任は「俺はお前らと違って工学系ではない」と断るが、成り行きで自分も巻き込まれてしまう。いっぽう大学では奇妙な盗難──梅宮の持ち物と同型のスマートフォンが消え、梅宮の机に置かれるケースが頻発していた。人工知能を積んだロボット”HICARU”が研究室を抜け出したことが発覚し、数々の謎を残して研究は進んでいく。
 産学連携のロボット開発に大学内の盗難を絡めたトラブル譚である。重大な犯罪は起きないが、いかにも現代的な題材を使い、人工知能にまつわるライトな会話を挟み、軽い謎解きを綴った読み物としては及第点だろう。
 ただし娯楽小説として見た場合、微温的な展開はインパクトに乏しく、ミステリーとしての小粒さも否めない。読み手にページを捲らせるためには、緊張感や好奇心を刺激する演出が必要になる。現代型のエンタテインメントでは、一定レベルの専門知識やプロの視座が求められるが、その点でも物足りなさが残る。人工知能のような注目度の高いテーマであれば尚更のことだ。
 とはいえ着想は面白いだけに、真相を隠す工夫を意識し、謎が生じたシステムを複雑化してプロットを膨らませれば、一気に化ける可能性はありそうだ。人工知能が干渉しあうことで、思わぬ連鎖反応が起きるかもしれない。事件を通じて人間関係が動くことも有り得る。大幅な改稿を施すための原型として、あえて二次に残しておきたい。

(福井健太)

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