第16回『このミス』大賞1次通過作品 宮本豊司

戦時下の日本人移民の解放に、アマゾン強行開拓への抵抗。
圧力にくじけず勇猛果敢に戦い、ブラジル全土に名を知らしめた日本人女性がいた。

『青空作戦(オペラスィオン・アズュール・セウ)』宮本豊司

 知られざる歴史に切り込んだ意欲的な作品である。
 十分な調査も行われずに実施された日本政府のブラジル移民政策は、現地において奴隷に等しい扱いを受ける者が出るなどの禍根を残した。棄民と揶揄される所以である。そうした人々を救うために尽力した女性・夏川小春が本編の主人公だ。第二次世界大戦において連合国側で参戦したブラジルは、日本人移民をサンパウロ州奥地の未開拓地に強制移住させた。それを妨害して、日本人を解放するために彼女を含む解放部隊が行動を起こす場面から物語は幕を開ける。その活動を軸として進んでいく前半部は、冒険活劇のテイストである。枢軸国側の敗戦によって転機を迎えた後半では、社会事業の進展のために小春が尽力するさまが描かれる。戦争が終わったとはいえ、彼女の行く道は決して平坦ではなく、新たな問題が前途に立ちふさがるのである。終盤に到るまで起伏に富み、冒険小説の正道を行くような展開がこの作品の魅力だ。
 筋立てにはまったく文句のつけようがない。恥ずかしながらブラジル移民史の知識がなく、夏川小春が架空の人物が否かということも知らないのだが、筆者の筆致は、彼女の実在を読者に信じさせるほどの現実感に満ちている。小説のディテールがしっかりしているからだろう。創作においては綿密な取材が必要不可欠だが、それをひけらかしては意味がない。この作者はその点をよくわきまえており、歴史的事実と主人公たちが見聞きする出来事とが適正なバランスで描かれている。やや控えめにすぎていて、冒険小説としてはもう少し登場人物の側に踏み込んだ書きようもできるのではないかと思うが、そこは好みの問題だろう。ただ、活劇としては描写が淡泊なのが若干気になった。小説において自然描写は登場人物の心理と有機的な関係を持つ。その点も武器として読者を魅了することができれば、さらにこの作品は輝きを増すのではないか。

(杉江松恋)

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