第16回『このミス』大賞1次通過作品 井塚智宏

一見単純な死の裏に隠れた真相を、英国かぶれの保険調査員が解き明かす
四つの謎からなる連作ミステリ

『ダージリンには早すぎる』井塚智宏

 英国かぶれで紅茶党の保険調査員・霧野英成が、一見単純な自殺や事故死、目撃者の証言により犯人が判明している殺人事件などの裏に隠れた意外な真相を解き明かす全四篇からなる連作ミステリです。
 学校になじめない女子高生・景都の目の前で、スマートフォンのメールを確認した直後に電車に飛び込んだ女子高生。悩みもなく人間関係にも恵まれていたと思しき彼女はなぜ死を選んだのか? DVを受けていた妻の胸に殺意が宿る。死んだ会社員は、どうしてアナフィラキシーショックを起こしたのか? 新婚旅行中の新妻が出会った英国紳士のような日本人・霧野に対して、不快感を示す夫は何を隠しているのか? 森の奥に建つ洋館で射殺された調香師。だが、目撃者が証言した人相は最有力容疑者である甥とはまるで似ていないものだった。しかも彼女は!
 それぞれ中心となるキャラクターを視点人物に設定し探偵役の内面を描写しないことで、日本人離れした霧野という一種浮き世離れした探偵役を不自然に感じさせません。1話ごとにスタイルを変えて、ミステリとして工夫を凝らし連作が陥りがちなマンネリズムを廃している点も評価できます。特に第二話から第三話への流れは秀逸です。第一話の正義感がやや生硬な点や第三話の動機に若干の無理が感じられる点、第四話の偶然がフィクションとして許容できるか否かという瑕疵はありますが、まずは一次通過の水準に達していると思います。

(川出正樹)

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