第16回『このミス』大賞 次回作に期待 土屋文平

『廃屋の町』橘左京
『人形奇談』高野了吾
『エルフィの鶴』宮代匠
『安楽死で殺して』平野俊彦
『名医探偵ル・ボン―砂の海―』美奈キング

 

『廃屋の町』橘左京は甲信越のある市役所の汚職などの内幕を丁寧に描いた作品で、ベタな書き方の素人臭さと入れ替わりトリックの取って付けたような印象がマイナス材料とはいえ、なにしろ元市長の58歳が書いた内幕ですからリアルさは本物でした。『人形奇談』高野了吾は奇妙な夢を見る女子大生が実家に帰省して、友人と夢に出てくる人形を探すというまるっきりのオカルト話なのに文章は軽快で読みやすい。暗くならないですんでいる不思議さがありました。ヘンテコな思い付きが形になっています。『エルフィの鶴』宮代匠は戦争中のドイツへ派遣された日本の士官の物語です。コンピューターの研究や当時の生活ぶりの珍しいディテールがこれでもかと描かれていて、文章はプロ作家のレベルですし、歴史の大きな独自の解釈も殺人事件もあって作品としての完成度はすばらしい。ただ主人公が落ち着いている分、危なくないところにだけ存在していたように読めて、もっとハラハラさせて欲しかったという贅沢な感想になったのが残念です。 『安楽死で殺して』平野俊彦も薬学部教授の知識をフルに生かしてあるのと、安楽死させてお金をもらう女性薬剤師が主人公にはなりえないような性格なのに、だんだん肩入れしたくなる書き方が珍しくて評価できます。脅迫者や刑事など実社会の人物となると、急に嘘くさくなるあたりがバランスの悪さとなりました。『名医探偵ル・ボン―砂の海―』美奈キングも豊富な海外生活経験をうかがわせる中東などの珍しい舞台で、その楽しさはあっても筋だけで描写がないし、異常な改行や自己満足っぽい書き方は改めたほうがいいでしょう。
 ともあれ他のどの作品も次回に期待、なのはたしかです。読みたくなる題材か、登場人物に魅力はあるか、描き分けはできているか、全体のリズムは整っているか、いろんな要素を確かめながら再チャレンジしてください。
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