第16回『このミス』大賞1次通過作品 倉橋省吾

プロ棋士の世界に衝撃が
名人戦の指し手を予告する脅迫状とは
将棋ソフトを巡る連続殺人

『完全予測棋譜』倉橋省吾

 日本将棋協会会長の奥村のところへ届いた棋譜は、2日後の名人戦第4局と完全に一致していた。協会理事の片岡も奥村と一緒に送り手とパソコンのモニターで対面すると、顔を隠した男は40年前に奥村が対戦した高瀬という奨励会会員の名を口にし、自分は自殺した高瀬の息子だと言い、この予測ソフトを放棄するには1億円払えと要求する。
 新宿署の刑事が大久保で発見された他殺死体の現場へ行くとそこは将棋バーで被害者は経営者で現役8段の須藤だった。続けて奥村は呼び出されて、自分のたった一人の内弟子の天才女子高生である桐生紗代の対戦日の日付の入った棋譜を、使い走りらしき男から受け取る。そして名人戦についてのスレッドに指し手予想の書き込みが現れて、その通りになったので騒然となる。新宿署の捜査は進まない。奨励会で桐生初段と対戦した結城拓哉二段は負けて彼女の強さに驚く。
 ここまででまだ五分の一くらいだから場面変化と次々にでてくる新しい人物で頭が混乱してくる。それでも読ませるのは不可能なはずの予測にどう決着をつけるか、という最大の謎が引っ張るからで、予測ソフト研究者の大学准教授を奥村が呼んで説明を受けることで意外と真っ当な解説となる。
 あとは犯人もわかり、それなりの終わり方はする。ただ人物描写はほとんどないし、年齢すらわからず、誰がメインでもなくて主な登場人物7人のうち4人が自殺を含めて死んでしまうという乱暴さである。将棋の駒のように使い捨てされるのは気持ちのいいものではない。
 それでも困難な設定を強引に展開していった意欲を買いました。今年新星現ると、急に騒がれ始めた将棋の世界に引っ張られて評価したわけではありません。

(土屋文平)

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