第16回『このミス』大賞1次通過作品 川路謨

辻斬りは連続殺人だった?
恨みを晴らしてくれる「祠」の秘密とは
岡っ引きの甚八が、不可思議な謎を解く

『化生人形』川路謨

 本所の徳兵衛長屋の奥には祠があり、そこにはお稲荷様ではなく「お守様」と呼ばれる人形が祀られていた。
 その徳兵衛長屋に、出戻りの姉おしのと共に住む岡っ引きの甚八が、この物語の探偵役である。
 辻斬りと思しき殺人事件が発生する。被害者は本所松坂町の高利貸し山崎屋利左衛門だった。この調査を任された甚八は、浅草蔵前の若旦那・松前屋箕吉が殺された案件との共通点に気づき、同じ下手人の仕業ではないかと疑う。
 関係者を調べていくうちに、山崎屋利左衛門は酷い取立てをしていたため、松前屋箕吉は女癖が悪かったため、どちらも恨みを買っていたことが判明。更には怨恨を抱く人物たちが、天誅を願って参拝していたことも。だがその参拝先が、なんと自分の住む徳兵衛長屋の「お守様」だと知り、甚八は驚愕する。しかも「お守様にお願いをすれば、恨みをはらしてくれる」という噂が、あちこちに流れていたのだ。
 そして甚八は、自分が子どもの頃に長屋で発生した事件のことも思い出すのだった……。
 時代ものや歴史ものだと、作者が調べた知識を全部詰め込んでしまい、ごちゃごちゃとする場合があるが、本作はそのようなこともなく、すんなりと読めた。「読みやすさ」は重要である。
 連続辻斬り事件、恨みを晴らしてくれる祠、「お守様」なる人形、といった要素も、興味を惹く。途中で新たな出来事も発生し、飽きさせることなく読ませてくれる。最後に明かされる真相も悪くない。
「いま誰の視点で語っているのか」が判りにくいことがしばしばあったので、それについては改善した方がいいだろう。説明で話が行ったり来たりするところもあり、整理すればもっと良くなる。また形容においては、ややステロタイプ的な表現がしばしば出てきたので、もう少し独自色を出して欲しい。
 ともあれ、今回読んだ応募作の中で、一番光っていた作品である。

(北原尚彦)

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