- 大森望
- 受賞作が賞の性格を決める
- 前回の選評に「(候補作の)アベレージは過去7回で最も高かったのでは」と書いたばかりでなんですが、今回の最終候補7作は前回に輪をかけて粒ぞろいだった。
- ハイレベルな7本のうち、エンターテインメントとして頭ひとつ抜けていたのは、中山七里の『バイバイ、ドビュッシー』と『災厄の季節』。ともにピアノの要素が共通するものの、小説のタイプはほとんど正反対。
- 前者は、全身に大火傷を負った16歳の少女が、つらいリハビリとレッスンに耐え、5分しか指が動かないハンデにもめげず、ピアノ・コンクールで優勝をめざす――という音楽スポ根もの。世代が世代なんで、思い出すのは『のだめカンタービレ』より『いつもポケットにショパン』ですが、そこに『エースをねらえ!』の宗方コーチを配合、さらに“トウシューズに画鋲が”的いじめまでサービスする、堂々の王道エンターテインメント。ではどこがミステリーかといえば――という部分に関しては無理が目立つが、全体にそれを許容する語り口なので、致命的な欠陥にはならないと判断した。爽やか音楽青春小説と意外な結末の異種配合で、大ベストセラーになる可能性を秘めている。
- 対する『災厄の季節』は、よくあるサイコサスペンスをそつなく書いただけ――と思ったらラストは怒濤のどんでん返し構成。おお、ライバルはマイケル・スレードかよ! 確信犯的にここまでやるなら、B級感あふれるつくりものっぽい味わいもむしろ正解。
- とはいえ、のだめvsスレードの対決は、一般性の点で、明らかに前者に軍配が上がる。ピアノ演奏描写の迫力とキャラクター造型も含め、小説としての出来も『バイバイ、ドビュッシー』が一段上。大賞候補にはこちらを推薦した。
- 一方、読む前から問題作のオーラを放っていたのが『快楽的・TOGIO・生存権』。
- 〈結局、僕よりも白のほうが長生きした。僕が死んで半世紀以上経ったのに、白はそのことをずっと気にしている。〉
- という冒頭の1行から尋常ではない。少し読み進むと、これが異世界の日本を舞台にした青春小説だとわかってくる。"白"と"客人"の対話を見守りながら、死んだ僕が50年以上昔を回想する。口減らしのため山に捨てられた子供(白)を僕が拾ったばかりに家族は村で白眼視され、学校では執拗ないじめを受ける。そのいきさつを語る文章が圧倒的に力強く、読み出したら止まらない。
- 問題は、村を出たあとの展開。僕は、行き当たりばったりにいろんな人と出会い、やがて東暁(もうひとつの東京)へとたどりつくが、異世界を支えるSF的なディテールがいかにも弱い(というか、微妙に古臭くて借り物っぽい)し、唐突なラストも、設定をきちんと突き詰めているとは思えない。しかし、それらの欠点は簡単に修整可能だし、オリジナリティと文章力は一級品。小説のタイプとしては平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』や、吉村萬壱『バースト・ゾーン 爆裂地区』の系列だが、それらの力作群にも負けないパワーが漲っている。『バイバイ、ドビュッシー』とは対照的な野蛮さを買って、両作品への大賞授賞に一も二もなく賛同した。
- この賞に向くの向かないのという議論も出たが、私見では、賞の性格が受賞作の傾向を決めるのではなく、受賞作の傾向が賞の性格を決める。過去の受賞作から賞のストライクゾーンを測るのではなく、「オレがストライクゾーンを決めてやる」ぐらいのつもりで応募してほしい。どんなジャンルの小説だろうと、真の傑作なら大賞が獲れます。
- 途中までは大賞有力かと思われたのが『カバンと金庫の錯綜劇』。パチプロの主人公の生活感あふれる日常描写はすばらしくリアルだし、彼が素人探偵として失踪人の行方を追い始める展開もスリリング。脇役に印象的なキャラが多くて、すぐにも映画やドラマになりそうだ。問題は、後半の仕掛けがわざとらしく見えること。このプロットをうまく消化するには、道尾秀介『カラスの親指』並みの技倆が要求される。自分でハードルを上げすぎて欠点を目立たせる結果となったのが惜しまれるが、優秀賞に文句はない。
- 以下、選に漏れた3作については簡単に。題名・設定ともにいかにもB級っぽい『死亡フラグが立ちました!』は、意外にもどんどんまともな方向へ進んでいく。ただし、東野圭吾の某有名作品を露骨に連想させる犯人像がネックとなり、後半は息切れ。なお、1次選考で枚数超過が指摘されているが、20字×20行で組めば800枚以内なので、応募基準はギリギリ満たしてます。
- 『鬼とオサキとムカデ女と』は、『しゃばけ』系列の時代ミステリ。オサキとオサキモチはライトノベル的にキャラが立ち、バディものとしても秀逸。ムカデ女を抜き、ホラー色を薄め、もう少しコミカルな味を足してキャラクター小説に仕立て直せば、大化けする可能性を秘めている。
- 『太陽に向かって撃て』はストレートな冒険小説。すらすら読めるし、読み心地は悪くないが、パターンから1歩も出ていないのがマイナス。平均点では賞は獲れない。
- 最後に注文をひとつ。今回、作品のレベルの高さに反比例して、(『死亡フラグが立ちました!』を除き)どれもこれもタイトルがひどすぎた。『快楽的・TOGIO・生存権』なんて言語道断。題名選手権なら真っ先に落ちてますよ。作品の顔なんだから、もうすこし真剣に考えても罰は当たらないと思う。