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  • 香山二三郎
  • ワタクシを見返していただきたい
  • 今回の最終候補は6作。まず塚本和浩『鋼鉄の密林』は元鳶職の老人が6歳の孫娘と一緒にかつて建設に携わった東京タワーに遊びにいくが、テロリストの襲撃にあい、他の客ともども人質になってしまう。語りがいささか粗っぽく、アマチュアのテロリストに対する警察側の対応も無様すぎてリアリティに疑問を感じるところも散見されたが、ハリウッド映画スタイルの大活劇演出にはわくわくさせられたし、東京タワーに関わった元鳶とスカイツリーに関わった元鳶が敵味方に分かれて闘うという着想にも感心。文章の手入れも充分可能と見て、イチオシ候補とした。
  • 矢樹純『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと』は大学助教授の「私」が同僚の頼みを受け、ともに東北の山村にある縁切り寺を訪ねようとするが、「私」の故郷であるその村にはおぞましい風習があった……。横溝正史というか三津田信三的な秘境の舞台が呈示され、胡散臭い探偵役も登場、さらに事件が発生し驚愕の事実も明かされるといった具合にサプライズを畳み掛けてくる前半は素晴らしいが、後半、村の風習は炸裂せず、ありがちな謎解きものに転じてしまう。謎解きそれ自体はがっちり作り込まれているが、前半の畳み掛けが凄すぎて竜頭蛇尾の感は否めず、とても勿体ない気が。
  • 友井羊『僕がお父さんを訴えた理由』は愛犬を殺された中学生男子が同級生女子にけしかけられ犯人探しに乗り出すが、手を下したのが自分の父親であることが判明、彼は実父を裁判に訴えようとする。ショッキングな出だしから家庭劇へとつながっていく展開に目新しさはないけど、そこから裁判小説に転じるところがユニーク極まりない。道尾秀介調の痛い青春もの系には既視感があるし、話作りもちょっとこじんまりしているが、完成度は高く、こちらは優秀賞候補か。
  • 保坂晃一『エンジェルズ・シェア』は3年前のある事件で懲戒処分を受け休業中の福岡の弁護士が美熟女の依頼で夫の素行調査を引き受ける。時を同じくして3年前の被害者の夫が現れたことから、過去の事件にも再び足を突っ込む羽目になる。主人公の一人称ハードボイルド語りはこなれていて、これが初めての小説とはとても思えないが、減らず口のたたきまくりは逆効果、読み進むにつれ閉口させられた。名作ハードボイルドのパロディ仕立てとしてはよく出来ているけど、この人の実力はもう1、2作読んでから判断しても遅くはないと思い、今回の結論はスルーとした。
  • 田中圭介『空と大地と陽気な死体』は空と大地という幼馴染の男女の半生を追ったクライムストーリーで、小学生の空がいきなり自分の父親を殺すと宣言してその通りになったり、年の離れた空の兄も殺されてその幽霊が大地の周辺に出没したりと、奇抜というかライトノベル的なファンタジー趣向交じりのタッチが面白かった。もっともこちらも乙一や東野圭吾の既作を髣髴させるし、大地と空の周辺で起きる犯罪事件の顛末が都合よく省略されていたりする。いいかえれば、独自の魅力に溢れてはいるけど、プラス面とマイナス面がはっきりしているので、メッタ斬られる可能性もあり。いちおう推しだが、賛同を得られなければあっさり降りるかも。
  • 最後の岡崎琢磨『また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』は京都が舞台。珈琲好きの若男子がふと入った河原町の店の珈琲にひと呑み惚れ、通い始める。可愛い娘バリスタは探偵能力にも恵まれ、店で起きる不可解な出来事も解き明かしてみせる。こなれた連作スタイルの“日常の謎”もので、心地よく読ませてくれるが、エンディングは予定調和的、『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと』と同様、失速してしまう。この書き手もブレイク間近だろうが、今回は見送ることに。
  • というわけで、一長一短はあるもののどれも楽しく読めたし、評価も下しやすかった。今回はすんなり決まるかもと油断したのがしかし大間違いで、いざフタを開けたら、各選考委員のイチオシがバラバラ、受賞作ナシなんて声も上がって、着地点が見えなくなってしまった。取りあえず受賞作は出すこととして、総合的に評価の低かった『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと』と『また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』の2作が外れたものの、残りについてはどれもプラスマイナス双方の意見がぶつかりあって決着つかず、結局プラス評価がより高く、なおかつ直しも少なくてすみそうな作品ということで、『エンジェルズ・シェア』に落ち着いた。消極的な理由で受賞者にはすまぬが、2作目以降に奮起してワタクシを見返していただきたい。ワタクシの推した塚本さんにはまた活劇ものを期待したいが、次は文章にもきっちり磨きをかけて。受賞を逃した他の皆さんも、今回は僅差の惜敗だと思って、ぜひ再チャレンジを望みたい。
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